聖夜狂騒曲 〜混迷の12月 U A
 

 

          



 さて、イブを過ごす約束は無事に取りつけたものの。問題は、その"プレゼント"だ。妖一さんはあれでも一応は"お坊ちゃま"なので、自分でそれなりの価値のあるものをきちんと揃えられる人物で。
"まあね。プレゼントはそういうもんじゃないってのは分かってるけどさ。"
 そんな考え方を持って来たらば、お金持ちには何も贈れないという理屈になって訝
おかしいのではあるけれど、
"けどなぁ…。"
 センスもいいし、何かと目も利く。その上、装飾品や服飾アイテムには関心がないらしいと来ては、
"一体何を贈れば喜んでもらえるのかなぁ。"
 そう。何はなくとも喜んでほしい。それはそれは嬉しそうに、はたまた、喜んじゃったことをちょっと含羞
はにかむような、そんな風に微笑ってくれるお顔が見たい。奇を衒てらったものを贈って一緒に笑うのもいいけれど、それだと"お友達"へのプレゼント。妖一さんは"イブの晩に一緒に過ごしたい"って思うほど、とっても大切な"恋人"なんだから。その"大切なんだよ"っていう想いが籠もったものじゃないとダメだ。
"う〜〜ん。"
 となると、手作りの何かとか? ああでも、ボクって大した特技ってないからなぁ。男の子にしてはお料理が少しほど出来るくらいかな。他には何かあるのかなぁ…と、自分の才能のなさに歯噛みする桜庭くんだったりするのである。………俳優の卵としての"一芸"はそういうことには計上されないらしい。困った困ったと眉を寄せてたら、
「こら。そんな顔しないの。」
 メイクさんにコツンて小突かれちゃった。ここのスタジオでのお仕事がある時はいつもお世話になってる、局専属のメイクさんで、
「桜庭くんは若いからあんまり厚く塗らないとはいえ、眉間にしわなんか寄せられるとすぐに崩れちゃって、あたしが怒られちゃうんだからね。」
 割とズケズケと言いたいことを言う人で、そうは見えないけど…春人と変わらない年頃の息子さんがいるのだとか。
「何か悩み事でもあるの?」
「ん〜、大したことじゃないんだけどね。」
 小さく笑って、肩をすくめた。危ない危ない。あんまりプライベートなことは話しちゃ不味い。いくら気を許してる人であれ、何の気なしに"こんなこと言ってた"なんて話題にされかねない訳で。悪気はなかろうから尚のこと、そんな些細なことで気まずくなるなんて、詰まらないことだしねと。桜庭くんとしては自然な心得として身についてる"防御"の構えであって、
「そう。なら良いんだけど。」
 メイクさんの方でもそこは心得たもの。押さば引くというさりげない"逃げ"の気配を感じれば、それ以上は訊かない。それがこういう世界のベテランさんたちの、暗黙の了解というものだし、そんなだから信頼もされる。やさしい手がファンデーションで顔色を調節し、手際よく髪を整えてくれる。
「はい。出来ました。」
「ありがと♪」
 ケープを取ってもらい化粧台の前から立ち上がる桜庭の、タレントにしては高い上背を見上げつつ、
「今日のお仕事って何なの?」
「えと、ジャリプロ倶楽部のスポットで、今年流行ったもののランキングだって。」
 メインの司会には関西出身の後輩の子が愛嬌のある軽快なトークで好評を得ている番組で、桜庭はその番組の中の"トレンド紹介"のコーナーに出ている。と言っても、取材は制作会社のスタッフが全て手掛けており、桜庭はさも自分が調べたかのように喋りつつ…その実、ただ台本を読むだけなのだが、さすがは"ドル箱タレント"で、このコーナーの瞬間視聴率というのが一番高い。
「まとめ撮りなんでしょ?」
「うん。来週分ので次に流行りそうなものも扱うらしいよ。」
 何が流行るんだろね、なんて。自分のコーナーなのにそんなことを言ってみせ、メイクさんを笑わせて、さて。付き人さんが呼びに来て、準備万端なスタジオへと向かったアイドルさんは…そこで思わぬヒントを貰うこととなる。





            ◇



 今年に限ったトレンドではないが、ビーズ細工というのがここ数年の趣味の世界では随分と持て囃されており。単なるガラス玉と侮るなかれ、高価なクリスタル製のものもあるし、美しい作品だと数千から数万円にもなるという、それはもう芸術品と紙一重の美しさ。主婦層の間では、キルト刺繍かビーズ細工というノリで、趣味の上位に数えられて久しいロングヒットらしく。それから派生したという訳でもなかろうが、銀を含有する粘土で自作のシルバーアクセサリーを作るというものや、ガラスの小物をバーナーで作るなんていう、職人さんも顔負けな"趣味"も普及しているとかで。そういった世情を綴った台本を読みながら、
"最近の主婦って暇なんだなぁ…。"
 それに器用だし意欲もあるしなぁと、感心しながら…お顔はニコニコとしたままに紹介し終えて。
「それじゃあ、来週は"次のトレンドを予想してみようっ"だよ?」
 またねと眸を細めての笑顔を作ると、手を振ってエンディングへ。15分ほどの短いコーナーなので、いつもなら一ヶ月分の4本をまとめて録画するのだが、年末年始は特別番組が入ってレギュラー番組はお休みになる時期でもあって。この『ジャリプロ倶楽部』もご多分に漏れず、3週間ほど休みだとか。
「でも、キヨちゃんはカウントダウンの総合司会とか入ってるんだろ?」
「らしいっすね。」
 メイン司会の男の子。爽やかな恋の唄を歌いつつ、何本かレギュラーで出ているバラエティ番組の方でも人気を博している活躍ぶりで、
「役者に転向なんてことになったら、ボクの仕事も危ういかな。」
 そんな冗談みたいなこと言いっこなしッスよ、なんて。ADの子と軽口を叩き合いながらパラリとめくった台本には、次週の分の紹介題材が写真つきで紹介されていたのだが。
"へぇ〜、これって面白いな。"
 いわゆる"彫金"という代物だろうか。薄い金属板に繊細な模様や図案を透かし彫りして、しおりやチョーカートップなどを作るというもの。まるで染色の版型みたいな、それは細やかな作品が幾つか紹介されていて、涸れた葉っぱの葉脈みたいなものとか、ステンドグラスの素材みたいな立派なものとか。
"器用な人っているんだよなぁ。"
 職人さんならいざ知らず、素人さんが趣味で作っていたりするから大したもの。
"………ふ〜ん。"
 インタビューやら紹介文やら、ふむふむと読み耽っていた桜庭くんだったが…途中から、頬杖を突いて考え込むこと、数刻。


  "………これって良いかも?"


 ほほお? 決まったようですね、プレゼントvv


to be continued.(03.12.19.〜)


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  *さあさ、次からいよいよ一気に当日へ参りますよ。
   このコーナーお初の“あるもの”も、
   お目見えするかもしれません。
   皆様へのささやかな X'masプレゼントになればいいのですが…。
   もうちょこっと、お待ちあれvv