去年今年 (こぞことし) B

       *す、すいません。ちょっとだけ怪しい描写がでてきます。
        苦手な方はお月様のアイコンまでで止まって下さいませ。
 

 

          





 カメラとお時間が再び戻って、こちらは雨太市の小早川家前へ通じている路上である。お家が無事だと判って良かった良かったって…何だか気が抜けて。
「…ちょっと上がって行きませんか?」
 せっかく傍らにまで来たのだから一息ついて行きましょうよと、セナは進さんにそんな声を掛けた。進さんのお家のあった町の、神社からこっちずっと歩き詰めだったのだし、喉も少し渇いたし。もう門扉が見えている小早川さんチだったので、進さんにも固辞する理由はなく、二人して慣れた道を てことこと進んだ。時折パトカーのサイレンも聞こえる、尋常じゃない真夜中だってところだけは、慣れてないことだったけれどもね。
「えと…。」
 キィッと少し軋む門扉を開けて、ドアの前に立って。コートのポケットをまさぐって鍵を探してたセナの傍ら、乏しい明かりを遮ってしまって手元が陰にならないようにと、セナから少しほど間を空けて立っていた進さんは、ふと。
「………?」
 何に気づいてか怪訝そうに眉を顰める。相変わらずの無表情は、だが、セナに言わせれば…眸の張りようや瞬きなどでそこに浮かんだ感情が読み取れるのだそうで。そんな涼やかな瞳が、今はかすかに伏し目がちになっていて。それから、
"………。"
 何かしらの気配を嗅いでいたらしき彼は、そちらへ向かうとお勝手口に出る、塀とお家との間の細い路地のようになった方へと視線を投げ、
「………。」
 ややあって そのまま足を運び始めた。やっと探り当てた鍵を片手に、そんな彼に気がついて、
「? 進さん?」
 どうしたんですかと、セナが訊こうとしかかったその時だ。

  ――― ザッ、と。

 夜陰の中を、まるで狙い定めた獲物に掴み掛かる猛禽類の鋭さと素早さで。大きな背中が俊敏な動きに乗って…セナの視野の中から掻き消えたものだから。

  「進さんっ?」

 どうしたのだろうか。少しほど驚いたような声を上げたセナだったが、それにかぶさって聞こえたのが、

  「ぐえぇぇっっ!」

 何とも異様な…飲み過ぎて もう歩けませんと立ち止まったおじさんが困った状態になった時のような、壮絶な声だった。

  "え? え? え? え?"

 一体何がどうしたのか。ただならぬ事態が新たに起こったらしくて、一瞬足が竦んでしまったセナで。でも、
"進さん。"
 此処はボクんチで、進さんに何かあったら大変で。そんなこんなと思い、そろぉって自分もそちらへと向かってみる。ガスや電気のメーターボックスが並ぶ壁づたいにそろそろと細い通路を通り、芝草が少し伸びてて、使ってない植木鉢を伏せたりした、雑然とした裏勝手の手前にひょこりと出ると、

  "あ………。"

 ちょうど真半分になったお月様がそれでも煌々と照らし出してたのは、2段ほどの小さくて短いポーチに誰かを引き倒して羽交い締めにしていた進さんで。見覚えの全くないその誰かさんのお顔の間近には、こんなとこに放り出してたりする筈のない百円ライターが、3つも転がっていたのだった。






            



 《 お手柄、アメフト高校生。放火犯をがっちり確保。》

 翌日の元旦の新聞の地方欄に躍ったのはそんな見出しであり、初詣で先からお友達の家へ戻ったばかりだった、都内☆市在住の王城高校3年生、進清十郎くんが、それは鮮やかに連続放火の犯人を羽交い締めにして捕まえた旨が、各紙に堂々と掲載されるに至った訳だが、
『…でも、あの。』
 さっき顔見知りのおばさんが"もう捕まった"って言ってたのに?と、小首を傾げたセナくんへ、
『捕まった"らしい"って仰有っていただろう?』
『…あ。』
 短く正して納得させ、お家の電話でパトカーを呼んで、それからちょっとだけ事情聴取というのに付き合って。やっとのことで小早川家のリビングに二人が落ち着いたのは、既
とうに元旦を迎えていた時間帯である。
「…なんか、妙なお正月になっちゃいましたね。」
 やっとのことで最初の目的だったお茶を淹れて来て、どうぞとテーブルに差し出したセナくんへ、小さく微苦笑して見せた進さんで。JRはオールナイトで走っているが、こうもバタバタしたとあってはもうお家の方々もお休みだろうからと。今夜はこちらで泊まってって下さいという運びとなっていた。携帯でその旨をお電話していた進さんの傍らを、客間にお布団を敷きにと さっき通ったら、
【もうっ、またセナくんのこと独り占めするっ!】
 そんな たまきさんの大きなお声が漏れ聞こえて来ていたが。
(笑) お布団を敷き終えて居間へと戻って来たセナくんは、
「お風呂、沸かしましたから入って下さい。」
 ちょっとした格闘をやらかした上に、外に長く居たので身体が冷えてもいよう。ソファーに腰掛けた進さんの傍らへと寄ると、そんな声を掛けたセナだったのだが、

  "…え?"

 くいっと。大きな手で抱き寄せられて。そのまま、お膝に横座りになるように手際よく抱えられ、気がついたら…進さんの懐ろの中に掻い込まれて、柔らかな口づけを小さな口許へと落とされていた。間近になった精悍なお顔。切れ長の瞳は深色をたたえて、鏡みたいに静謐で。いかにも男らしい、雄々しいお顔な筈なのに、鼻梁と口許は繊細な作りだから。そこが凛と引き締まってるのが微妙な色香になって、見つめられるとドキドキするの。柔らかで優しい口づけは、でも、それだけでは済まなくて。コートの下に着ていた白いセーターの、Vネックの襟元へ。そして、その下の玉子色のシャツの首のところへ、進さんの手はするりと伸びたから、

  "あ………。"

 そういえば。えと…クリスマスボウルの前だったから、えっと・んと…3週間も前になるんだ。………え? 何がって、あのその、えとえっと。//////////
「…小早川?」
 ぽわんと真っ赤になったセナくんは、だが、案じるように覗き込んで来る進さんのお顔を見上げると、くぅ〜ん・きゅ〜んと甘えるようなお声でお返事。大きな手の温もりが、小さな体にぽつんと、小さいけれどいつまでも熱い、きれいな炎を灯したから………。








          
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  『何だか、これから進さんに食べられちゃうみたいだなって。』

 シャツのボタンを誰かに外してもらうだなんて、幼稚園以来のことだったから何だか気恥ずかしくて。それで…包装紙を解いてる図のように思えると言ってみたセナだったらしく。だが、
『食べてしまうようなもんだな。』
 進さんには珍しくも、そんな即妙なことを言い返して来たから…恋って凄い。今夜は両親も不在だからと、客間に敷いたお布団にくるまって。お互いの熱をそっと差し出し合う二人だ。
「ん…。」
 すっぽりと包み込まれる優しい温もりと力強さと。隆とした筋肉のうねりや躍動感と、鞣した革のような、いかにも男らしい肌の質感と。それらを全身で感じて…思わず ひくりと震えたのを怯えととったのか。くるみ込むように、その実、逃がすまいとするかのように。ますますと抱き込まれ掻い込まれて、夢見心地な高みへと追い上げられてゆく。
「………。」
 淡雪のようにふわふわと、頼りないまでにやわらかな肌と温みと。甘い香りのする小さな小さな宝珠のような存在は、あまりに脆いからこそ、つい。壊してはしまわないかという恐れと失いはしないだろうかという怖さを、熱情の裏に柄になく感じてしまいもする。
「あ…、ん…。」
 可憐なくらいに幼
いとけない口許から、わずかに淫らなトーンの甘い声が零れて来て。それへと…頭の芯が蕩けるように痺れてしまう。可愛らしい人だから、どこまでも守りたい。愛しい人だから、全てが欲しい。同じ"好き"な想いの筈が、何故だろうか、時に真っ向からぶつかり合う不思議。とはいえ、こればかりは誰にも訊けない。自分で答えを出すべきことだと、そのくらいは分かっている。
「し…進、さん。」
 大きな愛らしい瞳が、今はだが、ただただ甘く潤んで、こちらを誘うように見上げて来る。風にも当てずに守りたいとしながら、でも…すまない。少しだけ苦しいかもなと、眉を下げて、小さな体を抱きすくめて。

  「………っ。」

 これが罪なら、自分だけが背負おう。だから今だけ。花蜜のような華やかで甘い陶酔に身をゆだね、二人の秘密を共有し合う。きちんと引き損ねたカーテンの隙間から、青白い月光が畳にすべって銀の道を描く。あうと声を上げた瀬那の小さな手が、夜具からはみ出して…パタリと冷たい畳に落ちた。その白い腕へ、銀の道が刻印を落とす。


  ――― これが罪なら…。






  〜Fine〜  03.12.28.〜12.31.


  *アイシールドのお部屋が出来て1周年です。
   いやぁ〜、早かったなぁ。
   でもでもネ。
   手をつなぐお話から"此処"までに、
   なんと1年掛かった訳ですね、この人たちったら。
(笑)
   何だか意味深な締めになってますが、
   ここから深刻な話は派生しませんのでどうかご安心を。
   ややこしい話には向いてない頭でございますんで…。(それもどうかと。)

  *現代が舞台の学園物(というかスポーツもの)というと、
   某伝説の作品のパロディ書いてて、
   オフラインで本出した覚えもあるのですけれど。
   まさか同じ路線のものに再び嵌まろうとは…。
   人生、至るところに落とし穴。
(笑)
   まだまだ余熱は冷めやりませんので、
   宜しかったら来年もどうかお付き合いくださいませです。

  *……………で。
   お年玉というのも何ですが、ちょこっと“おまけ”がございます。
   調子に乗ってのまたしてもですが、
   (しかもまたまた"ラバヒル"ですが。)
   よろしかったなら飛び込んでみて下さいませです。
   今度のヒントは…月がとっても青いから♪
 


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