「…っ☆ うまぁいvv」
ほかほかに熱い白身魚のほのかな塩味のついた淡白な味わいと、それをくるんだ衣のカリリというクリスピーな感触とが絶品だし。マヨネーズの酸味と微塵切りタマネギのアクセントが利いたタルタルソースと、鮮度抜群の千切りキャベツの、しゃっきりした歯ごたえとのバランスが何とも絶妙で。バンズの風味の濃厚さも、邪魔にならない程度に、でもその個性をしっかりと主張していて。
「ベーグルは今一つだなって思うんだけど、このパンだったら、俺、好きかも。」
店の前のオープンカフェにて、にこにこと笑いながら幸せそうにハンバーガーにぱくつく坊やに、そうだろそうだろと、こちらさんもまた笑みが絶えない歯医者さん。心の中にてチラリとこぼしたのが、
“ホンットに堪らん子だよな、こいつってば♪”
この年齢で、そりゃあ豊かな知識や様々に深い造詣を持ち合わせている博学なところとか、一通りの大人の世界の機微というものをまで、とりあえずの肌合いにて把握している物凄さとか。そういった後天的な“上書き”も凄まじいが、それ以上に。ちょいと傲慢なところもなくはないほど強かで冷淡な、生まれついての“皇子様”な坊や。その気高い魂は、大人が相手でも一歩も引かない、子供だからと甘えない。少なくともそれが“逃げ”になる場面では、ムキになって踏ん張る頑迷さを持っており、そんな負けん気の強さにいつだってワクワクさせられ通しで、この先どんな青年へと育つのかが楽しみでしょうがない。
“中途半端な甘い子にはしたくねぇんだよな。”
正直な話、このまま育てば凄げぇ存在になると思う。ただ はしっこいだけなのではなく、ただ機転が利く賢い子だってだけでもなく。過激で器用なお調子者に見せておいて、本質は繊細玲瓏。純粋無垢なところも多分に抱えていて、それがため、思わぬところに脆い面があり、そんな身を精一杯の背伸びでもって張り詰めさせている、ホントは一途で健気なところがまた堪らない。一点の曇りもない汚れなき純白が尊ばれるのは、何物にも侵されていない潔癖さが神々しいからではあるが。清楚な純潔には、その可憐で無垢なところを踏みにじりたいとする、邪(よこし)まな欲望も集まりやすい。実は非力で、どす黒くも衝動的な暴力に遭えばひとたまりもなかろう可憐な子供。実を言えば、本人の強気によってではなく、相手の心理的な葛藤…軽薄な罪人とされたくはないという、モラルやプライドとの戦いによって守られている存在である、何とも危ういところがまた堪らない…のだそうで。
“ま。俺は、勿体ねぇって思うから…この手で壊したりはしねぇけどな。”
そう思って。どちらかと言えば“Sっ気”の強いこの自分が、そんな自身にじりじりと我慢させてまで、好きなように良いように引っ張り回される道化に徹して、大人を屁とも思わぬ傲慢さに磨きを掛けさせ、ここまでの“生意気大王”に育んで来たってのに。
“困った伏兵が飛び出して来やがってよ。”
調子くれてるだけの“骨抜き軟派”が多いご時勢になりつつある今時には、古風なくらい純朴で不器用な一本気の。ちょっと昔のタイプの突っ張りくんが、坊やの前へと現れたもんだから。しかもしかも、そんな彼氏に何と何と坊やの側も…憎からずという態度を大きに示していたりするものだから。警戒という格好ででも関心を持たれている今はともかく。そのうちそっちの彼にこそとっぷり傾倒しちゃったらと思うと、何となく収まらない今日この頃な阿含であるらしく。
「なあ、阿含。」
「ん?」
良からぬことを考えていたもんだから、それが顔に出てたかなと。傍目には判らない程度にびくついた彼だったものの、坊やには何にも感づかれてはいなかったらしく。
「も一個、買ってもいっか?」
「ああ、構わないぞ。」
お母さんへのお土産かな。ほら、実はこんなにも優しい子。財布を渡されにっぱり笑って店へと駆けて行った小さな背中は見送ったけれど、そんな彼の手元までは見ていなかったものだから…。
“…あ、そうだvv”
車に残して来た自分のランドセルではなく。ズボンのポケットに入れていた小さなアイテム。それを引っ張り出してた坊やだということには、全く気づかなかった歯医者さんであったのだった。
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