Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 8
   
 Stray putit devil ?
 

 


          




「何を怠けているんだい、あんたたち。」
 とっととグラウンドへ向かわないかと、愛用の“ささら竹刀”で部室の壁を“だんっ”と叩いたマネージャー嬢。露峰メグさんて おっしゃるそうで。本名が早く判って嬉しい筆者ですvv …って、それはともかく。昨日の喧嘩騒ぎとやらは、幸いにして…今のところは警察沙汰にも新聞沙汰にもなってはおらず。一応はいつもの平穏な空気が戻っている雰囲気であるのだが、
「だってよ、ヘッドが。」
「今朝から姿見てねぇし。」
 部室に集まりはしたものの、じゃあ何をやればいいのやらと途方に暮れたようにしていた面々の言いようへ、
「ああ、それか。ルイなら休みだ。」
 そこは遠縁の親類同士という間柄。相変わらずに次男坊を小さい子のように扱うことのあるお母様から、今朝方 彼女へ直々に連絡があったそうで、
「何か寝込んでて起きて来ないから休ませるって、おばさんが言ってたぞ。」
 考え事でもし過ぎての知恵熱かなと、腹の中で笑った彼女と違って、

  「…ま、まさかっ。」
  「あのガキが何か一服盛ったとか。」

 妙に勢い込む部員たちであり。
「あんたらねぇ…。」
 途轍もない頭痛がして来そうだよと、こめかみやら頬やらを少々引きつらせ、メグさん、一気に爆発して見せる。

  「盛られるようなことをしたんだ、恨みっこなしだろうがっ。」
  「おおう、やっぱりっ!」
  「違うっ!!」


   ……… やってなさい。





            ◇



 これを“訳知り顔”とでもいうのだろうか。何かしら判っているからこそ、まだ判ってない奴を哀れむような顔つきになり、

  『まったく大人げないよねぇ。』

 メグがこれみよがしに“やれやれ”と肩を竦め、溜息混じりにそう言ったのは昨夜の話。せっかくの休みまで何で一緒にいなきゃなんないのよと、彼女は別行動を取ってた日曜日。繁華街の場末辺りで因縁つけられて、新興のチームを相手に久々に喧嘩になったこと。その後でガッコに集まって、興奮した酔いを覚ましていたらば、あの金髪の坊やが来たんだが。何を言い合ってか、ヘッドと険悪になって怒って帰っちまってよ。何だか様子が変だった…と。腹心クラスの連中からのご注進で、あらかたの報告を受けて幾つかピンと来たものがあった彼女なのだろう。早速のように家まで乗り込んで来て、早速にも“説教”が始まって。
『坊やは心配してくれたんだろうに。ああ判った、これからは重々気をつけるよ…ってサ。とりあえず口先でだけでも言ってやりゃあ、簡単に丸く収まったろうよ。』
 同い年の子供同士の喧嘩みたいな、ちまちました諍いはいつものことで。小さな坊やを相手にムキになる葉柱を、いつもいつも苦笑混じりに呆れつつ見て来たが。今日のは特に大人げないよと、意見して来た彼女にもムッとして、
『うっせぇなっ。』
 そんなことで怒ってた坊主じゃねぇんだ、見てもなかったクセに知ったような言いかたすんな。それにな、わざわざお前なんぞに言われんでも判っとるわ…と。ついつい憤懣の延長、喧嘩腰で言い返したら、すかさず がつんと…そんでも左手の拳で頬骨の端、よくよくコツを心得た箇所を稲妻みたいなフックで殴られた。こいつが日頃から竹刀を振り回しているのは、実は“自主的な制御”をかけての行為。素手の方がピンポイントで急所へ渾身の一撃を食い込ませられる分、破壊的なまでの威力があって。利き手でのストレートやアッパーだったら、葉柱でも失神してたかも知れないというほどの、洒落にならない腕っ節。ぎりぎりで何とか制御
(セーブ)をかけた“愛の鞭”を下さったお姉様から、
 

メグさん、かっこい〜いvv

 

『頭、冷やしな。』
 坊やと仲直り出来るまで、練習には出なくてもいい。そんな顔で出て来られてもモチベーションに響くだけだから、いっそ出てくんなとまで言われてしまった葉柱で。言い負かされたそのまま従うというのはいかがなものかと思いもしたが、悶々と一夜を明かした朝食の席で溜息ばかりをこぼしていたらば、母上からも“今日は休め”という厳命を受けた。
『そんな調子でバイクになんか乗ったら、絶対に事故を起こすに決まってるんだから。』
 近々“道路交通法”が改正になるっていうこんな時期に、都議の息子が無様な事故なんてやめて欲しいわよと、珍しくも都議夫人らしいことを仰有って下さったので。特に不調な訳でもなかったが、家でぼんやりと過ごすことにした。

  “………。”

 庭を望める居間の窓辺。濡れ縁に腰を下ろして、まだまだ緑の多い“晩夏”の構図のままな庭を視野に収める。こっちの気配に気づいたか、シェルティのキングが、はふはふと駆けて来て“構って構ってvv”とじゃれついて来たのへ、わしわしと毛並みを撫でてやりつつ、

  “…このくらい判りやすい奴なら、ああは ならんかったのかな。”

 判りやすいとか素直とか、子供につきものな形容詞に限って、何と縁の薄い子だろうかとあらためて感じる。外見はあんなにも愛らしくて稚
(いとけな)いのに、中身はどうかすると…自分よりも大人かも。それにしちゃあ、
“いつも以上に。えらく大人げなかったよな、昨日は。”
 子供みたいにムキになっててよ、と。子供を相手の言いようとは思えないなと苦笑をすると同時、今にして考えてみりゃあ、自分の側も確かに大人げなかったような気もすると…ちょこっと反省。殴り合いで決着をつけるなんてのは一番幼稚な方法だという、妖一坊やの言い分が、自分には判るが残念ながら理解出来ねぇ奴も少なからずいる。選りにも選ってそんな野郎に大きな顔をさせたくないなら、まずは話を聞けとばかり、最初に相手を叩き伏せ、力の差を見せつけなきゃなんねぇんだよ、と。そういう“次第”からをちゃんと説明したのなら、もう少しは冷静なやり取りにも持っていけたことだのに。何だか面倒になって言葉を惜しんだばっかりに、結果は…いつも同様の“売り言葉に買い言葉”となってしまった。

  “………。”

 でもでも、それは今に始まったことじゃあない。どういう訳だか、あのチビさんに対する時は、いつだって余裕のないままに向かい合い、気がつけば…良いように振り回されっ放しの日々である。十歳近く下の子供だとはいえ、頭の出来では勝てないと、重々心得ている筈なのにな。理屈で勝てなくて、それでもムキになっては…今度はキスや泣き顔に翻弄されている。それが鬱陶しいなら、いい加減 見切ればいいのにそれも出来ない。この想い入れってのは何だろう。

  “………。”

 言動の全てが、およそ子供らしくはなく。それこそ“大人”のように、割り切ってたり自立していたりするものだから。手がかからない分、判った判ったなんて小手先で あしらうことも出来なくて。その点では対等に扱っていたという自覚はあった。でも、

  『ルイなんか大嫌いだっ! もう逢ってなんかやんねぇっ!』

 それへと“せいせいするさ”と言っておきながら、全然“せいせい”しちゃあいない。むしろ、どんどんと気が重くなるばっかりだ。

  “…あれは実際、卑怯だよな。”

 日頃は“子供”じゃないくせに。困らせたい気持ちが半分の駄々も捏ねるし、やや強引に甘えもするが、ともすれば自分たちよりもずっとドライでクールで。現実に向き合う時だけ、理知的に割り切った上でひどく醒めた眸をする妖一で。強く望めば諦めなければ、それだけで何でも叶うという訳には行かないとか、自分は自分で他人は他人、色んな人間がいるんだという大人の理屈もしっかりと判ってて。
“なのに…。”
 どうしてあんな駄々を捏ねた? 所詮は下衆な負け犬に過ぎなかったんだと。モチベーションが続かない、所詮は安物な野郎どもだと、いつもやってるみたいに見下し半分、自分たちに向けて嘲笑すれば良かっただけなのに。

  『ルイなんか大嫌いだっ! もう逢ってなんかやんねぇっ!』

 喉が裂けそうな金切り声を上げながら…坊やの方こそ深く傷つけられたと言いたげな、今にも泣き出しそうな口惜しげな、そしてそして悲しげな顔や瞳をしたのが、いつまで経っても脳裏に焼きついて離れない。

  『決まってんじゃん。態度を使い分けてるんだよ。』

 標準装備の仮面
(ビスチェ)のように、大人の前では徹底させてる、愛らしくも品行方正な“天使”っぷりは、まず最初にあっさりと脱ぎ捨ててくれて。それはお元気で手ごわい小悪魔“サイバーテロリスト”っぷりも早々にご披露いただき、自分に対しては得るところもない相手だと見下しての判断からそうしていた彼なのだろうなと、後になって思い知った。

  ――― けれど。

 自分に対するそんな態度の数々が、威張りはするが“居丈高に”というほどのそれじゃあなく、むしろ“甘え”の延長だと判る。あちこちで作り笑顔を振り撒く彼が、安心し切って伸び伸びと振る舞っている。無理して天使ぶったりせず、すっかりと気を抜いて自然体でいる。対等な口を利いて見せ、そのままやり込めさえする意気軒高さ。小生意気で偉そうな、鼻持ちならない坊やだってのに。懲りて敬遠したりしないまま、相手をし続けていた葉柱だったからだろうか。


  ――― ねえ、ボクはこんなに悪い子だよ?
       こんなに根性曲がりだし、こんな意地悪をするよ?
       それでも…いい子だって抱き上げてくれるの?
       一緒にずっと遊んでくれるの?
       お母さんみたいに、お父さんみたいに、
       無償の愛情、分けてくれるの…?


 愛情薄い訳ではないが、それでもね。いろいろ見通せるからこそ、今更 無邪気に振る舞えないと。ホントは甘えたなのに、今更“子供”には戻れないと思い込んでる、ホントは臆病な寂しがり屋。そんな子だと薄々気づいていながら。野放図に暴れても構わないと懐ろ深くまで受け入れておきながら、いきなり突き飛ばしたようなものかもなと。だから、悲しそうだった顔が忘れられないんだと。やっと理解が追いついて。


  「…やっぱ。大人げないには違いねぇよな。」


 ゴリゴリと頭を掻くと、向かい合ってたキングが“きゅ〜ん?”と小首を傾げて見せる。坊っちゃんたら何を考え込んでいるんだろうか。あいにくと言葉が判らないから、一緒に考えてはあげられないの。そんなお顔になった仔犬と向かい合ったまま、

  “けどなぁ…。”

 こっちの矜持を曲げてまで我を通してやるってのは。結局、形が“甘やかし”でないだけで、やっぱりただの過保護じゃねえのかなと。糸口がやっと見えた想いは、そのままどんどん“お父さん”のそれへと発展して行ってるような気が………。お〜い、総長〜っ。帰ってこ〜い。
(苦笑)








←BACKTOPNEXT→***


  *マネさんの名前がわかって嬉しいですvv