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父兄参加の“お着替えレース”というアトラクション競技に、葉柱のお兄さんと組んで出ていた蛭魔さんチの妖一坊や。指定された職業や扮装の衣装にお着替えし、小道具を持ってゴールインするという、ただ走るだけでなく、ペアを組んだ家族とのコンビネーションや機転も必要とされるよな競走だったのだけれども。どう見ても“子供用”ではなさそうな上っ張りを葉柱が見つけたことから、何だか妙な方向へと突っ走らんとしている坊やであるらしく。彼らしくはない小芝居を挟んでの指示に従ったお兄さんに背負われたまま、校舎裏の先生方の駐車場までを運ばれながら、まるで鬼ごっこが始まったと言わんばかりにはしゃいでいるらしき困った坊や。運動場から離れたことで、競技への歓声やらスタートやゴールの合図代わりのホイッスルの音などという喧噪やらからも少しは遠くなり、今日だけは児童であっても校舎には原則立ち入り禁止となっているがため、行き交う人の姿も格段に減って。校庭よりも少し高台になっているせいで、本部や放送席などがあるテントを眼下に見下ろせる、校舎周りの側の敷地まで上がったならば、不意に静かな別世界へと入り込んでしまったかのような感覚に襲われる。そうまで離れたのを見澄ましてのことだろう。坊やはやっと自分の妙な行動への詳細を、背中越しに総長さんへと話し始めた。
「あんな? 泥門駅前の一丁目商店街に“麻黄堂”っていう時計屋があるだろ?」
「?? あったっけ?」
のっけから力が抜けそうなお返事へ、あるんだよと少しばかり声を強めた坊やは、
「まあ、凄げぇ小さい店で、時計とメガネを一応扱っちゃいるが、あんまり派手な流行り方はしてねぇかな?」
それでもなかなか小綺麗にしている店であり、通りに向いた大きくて明るいショーウィンドウには、一応はロレックスやピアジェらしき高級時計や、ブランドものの最新作のフレーム。アンティークみたいに凝ったデザインの置き時計や、ゴージャス…とまではいかないデザインながら、それでも女の子がついつい見とれてる、ティアラに豪奢なネックレス。ディスプレイ用だろうキラキラと綺麗なクリスタルの置物とかが、季節毎に商品を入れ替えられつつ、いつも並んでいるのだそうで。
「そこが何と、昨夜遅くに泥棒に入られたらしくてな。」
ローカルニュースでやってたし、少し遠いウチの近所にまでパトカーが聞き込みで来てたと坊やは言う。商店街の店々は大概が“住居兼店舗”という形式の家ばかりで、その時計店も2階の住居部分では店主の家族が寝ていた筈なのだが、
「今にして思えばそれも犯人一味の差し金か、夕方の閉店時刻あたりに親戚からの電話があって、年のいった父親が実家で倒れたから至急来てくれってのに夫婦で呼び出されててな。」
夫婦と通いのアルバイトの店員2人、たった4人で切り盛りしていた店は難なく無人になってしまい、簡単な戸締まりを破られて、店の奥に設置されてた金庫を破られ、ケースに保管してあった宝石やら純金のインゴットやらと、ショーケースに飾ってあったブランドものの時計やアクセサリーをごっそりと持ってかれたらしい。
「小さい店でも一応は、客が本気で結婚指輪や何やを買いたいって時に出す“取って置きっ”てのを仕舞ってたらしくてサ。」
でも、目玉商品を後生大事に仕舞ってるだなんて、やっぱあんまり商売っ気はなかったんだろな、なんて。一丁前にもそんな言いようをした坊や。昨夜の事件の詳細を、よくもまあそこまで把握しているもんだなと、さすがの情報収集力に感心しつつのお兄さんの急ぎ足にて、辿り着いたるはご自慢のオートバイの傍ら。広い背中からすとんと飛び降りれば、手慣れたタイミングにて振り返って来た総長さんの長い腕に、やっぱり慣れた手順で抱えられ、そのまんまタンデムシートの後方に設置されてる子供用座席へとひょいっと乗っけられる小さな坊やへ、
「そんな物騒な話と、その駅員さんの制服と、一体どういう関係があるってんだよ。」
大人用の寸法だから、それでなくたって小柄な坊やには袖も身丈も余り倒しており。ワンピースほどというのはオーバーながら、それでも上着だけで下は半ズボンから白い御々脚がニョッキリと晒されているというこの構図は、お兄さんにはなかなかに目の毒で、少々落ち着けなかったりもするのだが。
「ルイ?」
不意に動きが止まった葉柱だと気づき、ちょっぴり怪訝そうに“どうした?”というお声をかけて来た坊やの、小首を傾げた所作が妙に…愛らしいそれだったもんだから、
「な、なんでもねぇよ。」
誤魔化すような強めの声を上げ、自分もシートの前の方へと跨がると、セル一発でエンジンをかける。警戒の要らない、肩を張る必要のない相手だからということか。時たまとはいえ、全く尖んがらない“素のお顔”をひょいっと見せてくれる坊やなのが。嬉しい反面、タイミングによっては…その魂まで持ってかれそうなほどに威力も抜群にあるものだから、自己制御が大変なお兄さんでもあるらしく。(苦笑) とはいえ、今はどうやらそれどころではないらしい。何をおかしな顔ばっかしてんだよとでも言いたいのか、いやいや、今は早くバイクを出せと言いたい彼なのだろう。たちまちのうち、きゅううっと口許を尖らせる坊やだったからね。
「判ってるってばよ。」
坊やがまずはと出していた指示、JR沿いの幹線道路へまずは出ろというのへと従うべく。アスファルトを敷いた駐車場からゆるゆると、裏門にあたる出入り口までは徐行運転でバイクをすべらせ、そこに立ってた顔なじみの警備員さんへペコリと頭を下げる会釈を送れば。後ろで坊やも満面の笑顔つきの“バイバイvv”をしたらしく、結構奇天烈な服装の坊やな筈だったが、それこそ急ぎの帰宅で間に合わせの服を羽織らされたとでも解釈されたか、そりゃあ暖かい笑顔を返して下さった。そのまま歩道つきの広めの道へと出ると、まだ住宅街の道路の延長という趣きの強い、交通量もぼちぼちな大通りを二人して突っ走る。小学校への様々な物資搬入の勝手のためか、こちら側が接しているのは結構大きめの道路だったが、それでも通りすがる車の影は無いに等しく。バイクの加速のせいもあって勢いが増しているのだろう、秋の初めの乾いた風が、総長さんのちょっぴり長めの黒い髪やら白ランの裾やらをなびかせながら叩いてゆく。一旦走り出すと、四輪と違って囲いのないオートバイでは会話もなかなか難しいのだが、乗っかる時に自分が腰掛けてるシートのポケットから取り出しといたらしい、ちょっぴり変わった形の…片側だけのカバータイプのイヤホンを耳にあてがった坊やであり。内側にメガネの蔓のような工夫があるのだろう、手を放してもずり落ちないそれと同じものを、すぐ前の総長さんの学ランのポケットへとすべり込ませる。すると、それに気づいた総長さんもまた、信号待ちのタイミングに両脚の踏ん張りだけで車体を立てつつ、そのイヤホンを自分の耳へと装着し、
「で? そのJRの制服が宝石泥棒とどう関係してるってんだ?」
さして声を張ることもなく呟けば、
【 だから。これは駅員の制服じゃないんだってば。】
坊やのお声がすぐさまイヤホン部へと返ってくる感度のよさ。これ、実は非売品の超軽量インカムマイクとレシーバーで、坊やの知己である高見センセーから“モニターしてやるから”と分捕って来たものだとか。何でも、耳の周辺の骨に音を響かせることで聞き取らせる仕様になっているので、どんなに喧しい状態でも難無く相手からの声を聞き取れて、しかもしかも、ここがこの装備の新しい工夫。送信側の声だけを、やはり騒音の中から拾い上げる、特殊ICセンサーが使われているので、話す側も声を張り上げる必要なく話せるという優れもの。今のところは、坊やとお兄さんという二人で、トランシーバーのようにしか使っていないので、センサーへの学習効果がどれほどのものなのかという方面でのモニタリングは微妙だったが。(おいおい) 便利なグッズとして使わせていただいてはいる彼らであり、
「駅員のじゃない?」
【 ああ。】
今日びの駅員関係の制服は、もう少し懐ろがゆったり開いたブレザータイプの、しかもあんまり威容を強調しないエレガントで取っ付きやすいのに変わりつつあるからな。
【 こんな、いかにも威嚇的なの、珍しいくらいだ。】
そうと言ってから、バイクの減速音で赤信号の交差点へと入りそうなのを感じ取ると、大きな背中にへばりついてた手を片方だけ外し、その制服のポッケから何やら掴み出す妖一くんであり。
「???」
総長さんが邪魔になってて前が見えずともという、こんなコンビネーションはいつものこと。手が離れてもさして慌てず、その同じ手がバイクの停車と同時に脇腹をつついて来たのへ少しばかり視線を向ければ、
「………何だ? そりゃ。」
【 でっかい飴玉に見えんなら喰ってもいいぞ? 間違いなく歯が欠けるだろうけど。】
坊やの手に余るほどの巨大さではないが、それでも結構なカラット数だろう、大ぶりのビー玉くらいの宝石であるらしく。
【 これはイエローダイヤって言ってな。最近の流行りもんなんで、同じ大きさのダイヤん中でも一番高い。】
色の濃さもあって、カットも上品だし、この大きさなのに透明度も均一だから、グレードも高い。そうさな6千万は下らないだろなと言われて、
「………。」
【 ルイ、信号変わるぞ。】
「あ、ああ。」
そういうものに関心がない葉柱でも、すぐ間近にひょいと取り出されれば多少はビビるだろう、不動産単位の値段がする代物。再びポケットへ仕舞われるまで、バイクを発進させられなかったあたり、
【 結構“庶民”だな、ルイ。】
「うるせぇよ。」
そんなとんでもないものが、ポッケに入ってた制服だということは。そこまでカードが揃ったならば、いくら何でも判ること。
「…窃盗犯が犯行時に着てたらしい服だってことかよ。」
【 そうなるんだろうな、恐らくは。】
そんな時間帯に町の中に制服姿の“駅員”さんがいるのは不自然だってくらいは、葉柱にも判ったらしく。
「警備会社の制服、か。」
【 そゆこと。】
押し込む時に、万が一誰ぞに見咎められてもさ、これを着ていれば“ああ、なんだ警備会社の人か”ってことで警戒は呼ばないし、これまで見た覚えがない顔でもそうそう不自然なことでもない。それと、
【 後であれが犯人だったのかって判ってもだ。警備会社の服を着てたってインパクトが強すぎて、個人的な特徴は覚えられてないって利点もあるんだと。】
自分の顔を覚えられては不味い場合の変装で、一番簡単で効果も高い方法は、鼻の傍や頬の縁に絆創膏を貼る、なのだそうで。下手に化粧を濃くしたり、つけ髭やかつらをかぶったりすると、ありゃりゃ、この人、何だか不自然だなと、却って警戒されてしまう。それよりも、目撃者の視線を故意に一点へ引きつけておけば、それ以外の特徴には注意が行かないので、案外と“どんな人だったか”思い出しにくいのだそうで。特に日本人は相手の目を真っ向から見てという会話が苦手な人が多いので、進んでそっちのダミーばかりを見てくれるから、ますます効果覿面てきめんなんだとか。
「そっか。そして犯行後は、逃走用の車を置いてでもいたのか、少し遠い小学校に忍び込み。これ幸い、色んな衣装が山積みになってたワゴンに変装に使った衣装を突っ込んで、証拠隠滅…とした筈が。」
お宝の中の逸品、この大きめのイエローダイヤを一緒に置いて来てしまったと。
【 この制服自体も取り戻したがってるんだと思うぜ?】
くふんと笑った坊やがそう言い、
【 この宝石だけなら、未練も大きいながら諦めもつくだろけどな。それがこの衣装のポケットにありましたってことだとなると、警察へヒントを渡すことになっちまう。】
何だか謎めいたことを言う彼であり。黙ったまんまでいることで葉柱が先を促せば、
【 袖口の内側に、血がついてるんだよ。】
「…っ!」
しがみついてた胴が微かに慄おののいたような反応を示したから、ちゃんと何かしら…犯罪の気配という意味合いが通じたんだなと思っていたらば、
「お前、そんな気持ちの悪いもん、よく羽織れたなぁ。」
【 …蹴るぞ。】
面白いコンビです、相変わらずに。緊迫感があるやらないやら。時々、加速風以外にも吹きつける風があるせいで、二人ともが服やら髪やら、叩かれるみたいになぶられながら。でもね、しがみついてる大きな背中はとっても暖かくって。時々は、ハンドルさばきの関係でかな? 背中の筋肉がむいって盛り上がったりするのがカッコいいなって感じつつ、
【 そうじゃなくって。】
坊やは子供とは思えない淡々とした調子で説明を続ける。宝石だけではやっぱり犯人へのヒントはないし、汚れてる服だけとかいう見つかり方なら事件への結びつけようがないけれど、
【 こんな服のポケットに宝石があったということはだ、これを着てた奴が一味の一人であり、しかも怪我をしてるってところまで判るってことだ。】
ちょっと目には分からない内側の血痕だということは、被害者の返り血である可能性は低い。それに、無人の店への侵入だったらしいので怪我人は出なかったという話だし。大方、ショーウィンドウを壊した時にガラスが割れて、引っ掻いてしまった犯人なのかも。も一つ付け足すならば、最近になって“犯人のもの”に限られることながら、DNAは資料として保管されることとなった。逮捕されていない事件で発見された残留物を“資料”として保存しておくことで、新しい事件の犯人のそれと照合してみて一致したなら、あの事件の犯人もお前だったのか…という形で解決への糸口が発生するからで。確か前歴所持者のそれも、あくまでも参照資料としてながら、保管されることになったんじゃなかっただろうか? そういう資料に照合させてもしも一致する“資料”が警察の側にあったとしたなら、ますます犯人たちはその輪郭を明らかにされてしまうのかも知れずで、
【 それを“ヤバイ”と思うかどうかは、それこそ犯人次第なんだろけれどもな。】
坊やの小さな身では総長さんの体が盾になってて、バックミラーまで覗けないから。シートからそぉっと背後へと振り返ってみれば、
【 この件に関わってる奴らは“ヤバイ”と思ったらしいぜ。】
そろそろ他の車の陰も増えて来た国道に入ったが、それでも坊やにはそれだと判るらしい一台の国産車。
【 まんまと乗せられて、追っかけて来てやがるからな。】
乗ってる人の顔を見ての判断なのなら、やっぱり眸がいい彼なんだなという証し。そして、そんな怪しい奴らをとりあえずは学校の校庭なんて場所から引き離そうと構えた妖一くんであったらしく、
【 連中が破れかぶれんなっての強引な追っかけっこにでもなったなら、突き飛ばされたりってカッコで犯人と接しはしなくとも、騒ぎにびっくりして逃げ惑うって形での“巻き添え”を食う年寄りとかが出るだろからな。】
それで心不全か何か引き起こされたりしたら後味悪いじゃんかよと言い出すに及んで、
「…成程な。」
やっとのことで、坊やの唐突な行動とその企みの方は何とか理解できた総長さんだったものの、
「けど。何でまたお前は、レースの途中でそんなことが判ったんだよ。」
確かにそういう窃盗事件があったのだろうさ。そういうニュースへは大人並みのレベルでちゃんと把握している坊やでもあろう、ましてやご近所、駅前商店街での事件なだけに、知っていたこと自体へは今更驚きゃしない。…とはいえ、そういうのはどんなにご近所で起こったことであれ、他人事として把握するものではなかろうか。ましてや楽しい学校行事、運動会の真っ最中なんぞに、普通は想起するもんじゃないと思うのだけれども。
“…まあ、こいつに“普通”を求めるのも今更な話ではあるがな。”
そういう納得がなめらかに追いつく自分からの彼への把握も、決して褒められたもんじゃあないけどなと、乾いた笑いを胸中で噛み締めつつ、
「怪しい制服を見つけて、それをそのまんま持ち出したところで、必ず追っ手がかかるとは限らんだろうがよ。」
監視していた犯人たちの目があったことに気がついたからこその、その後の彼のこういった行動なのであろう、そしてそれにまんまと釣られた犯人たちであろうけれど。その始まり、犯人たちがその警備員の上っ張りを狙っているぞということに、一体いつ気がついた坊やだったのか。
「運動会の最初から、そんな輩が紛れ込んでるなんて気づいてたお前じゃなかろうが。」
そんな方向の何かを意識のどこかに引っかけたままで、はしゃいでいたような彼ではなかったと。年齢相応に無邪気なまま…とは言い難いところもたまには見受けられながら、それでも心から楽しんでた彼だったと、そこには自信もある葉柱で。そろそろ信号が変わるのを意識しながら訊いてみれば、
【 さっきのレース。俺らの次の組に、見たことない子供が混ざっていたからだ。】
「………はい?」
ブレーキをかけがてら、何ですて?と訊き返した葉柱のお兄さん。見たことないったって、坊やが通う少学校は、現在の日本が最も憂うるべき社会問題にもなっている“少子化”という現状にあっても、結構な児童数を保っている学校なのに。それに、さっきの競技は低学年限定のそれではない。二人三脚が低学年には危ないとされただけで、こちらの“お着替えレース”には高学年生だって加わっており、ゴールした人はとっとと観客席へ返っていたほどの参加数。だってのに“見たことがない奴がいた”と言われてもねぇ。それじゃあ納得が行かないんですがと、もっともなことを感じたらしき総長さんへ、
【 自慢じゃないが、俺は今の全校生徒と去年卒業してった元六年生の顔と名前を、全部把握してんぞ?】
だからこそ“あれれぇ?”と不審に思い、そのまま…この怪しい制服が語ることの意味へと素早い閃きが働いて辿り着けた彼だったらしい。
【 六年に見せてたんだろが、ありゃ中学生かそれ以上だな。】
俺の記憶にないから、中二か中三か、それか学区外に住んでる子供だな。駅前商店街なんていうローカルなトコに押し入ってるから、ここいら近所在住の犯人たちなんだろうけど、
「それがどうしたよ。」
【 だから…。】
あの“お着替えレース”に使われる山のような衣装たちは、近所の児童劇団からのお下がりで。頂き物だからこそ大切に扱われており、恐らくは昨日の夕刻になってから倉庫から取り出され、コースに置かれるあの台上へ準備されたに違いなく。従って、強盗犯が“要らなくなった仮装の制服”をそこへと突っ込んだのもそれ以降と思われる。そんな彼らが一体いつ頃、戦利品が足りないことに気がついたのかは定かではないが、見つかってはまずいパターンで放置してしまったと判った彼らは、回収しにと“日曜日の小学校”へやって来たのだが、そこで繰り広げられていたのが………何とこの運動会。仮装用の衣装が載せられていた台も、午後の競技にもかかわらず、段取りの関係か随分と早い時間帯に本部のテントまで運ばれており、微妙に衆人環視の中にあったから、こっそりと近づいてササッと掠め取る訳にも行かなかったのだろうと思われて。
【 それで、堂々と取り返せる算段ってことで、子供と父親っていう参加選手として紛れ込んだつもりだったんだろうが。】
「…全校生徒を覚えてたお前に“部外者”だって見破られちまった。」
【 ぴんぽ〜んvv】
うわ〜〜〜。何か物凄く凶悪な弾み方してませんか、坊やのお声。(苦笑) 強盗なんて悪いことをした相手なのに。警備会社の制服なんてそうそう簡単には手に入らないもんだろし、どこかで手慣れてはいる相手。ということは、どっかで強引なこともしていて、もしかしてそっちの方では怪我人だって出ているのかもしれないのに。坊やの余裕の解説を聞いているうちに、何ででしょうか、悪人であるはずの犯人の方が気の毒になって来たりして。
“そんな新喜劇のコントみたいな方法で、ブツを取り戻そうなんて考えた奴らが間抜けなだけだって。”
諦めちまって遠くへ逃げるとか、他にも選択肢はたんとあったろうによ。そうとうそぶく坊やだったが、それを言うならあんただって。何もあんな芝居しがてら、犯人たちを引き離そうなんて危険なことは思わずに、とっとと先生へ預ければよかったのでは? 今朝見たニュースでやってた宝石強盗の、盗んでった品物じゃないですか?って。このお洋服にも血がついてましたよって。
“それこそ、こいつには“今更”だろうって。”
………この子との付き合い方ってのへ相当慣れて来ましたね、総長さん。スリリングなことに一丁噛みするのが快感だからと、大人でも尻込みするよな事態でも、ちゃんとそうだと把握した上で“面白そうだから”と手をつけたがる跳ねっ返り。普通なら、物でも人でも危険や不審に連なるものに出会ったら、大人に言って自分は避難しましょう…が基本の筈。非力で経験値もない子供が無闇に関わるなんて、危険なことこの上もないから…だが、この坊やに限っては、ちょいと話が違ってくる。非力には違いないものの、経験値の話になるなら、むしろそこいらの大人以上に知識も豊富で世慣れてもいて。繰り出せる手練手管は半端じゃないし、しかもこの子の関わり方がまた、遊び半分じゃあないから恐ろしく。ミニパト班の婦警さんたちから、キャバクラやイメクラでナンバーワンを競い合うお姉様がたまでという、そこから先へも更に様々なコネを駆使できる、恐ろしいまでの人脈持ちでもあるものだから、下手に怒らせたなら、陽の下での制裁も、夜の町でのお仕置きもと、緩急自在の小さな覇王。ここいらの街道筋のやんちゃな“族”を仕切ってる程度の葉柱なんぞ、下手すりゃ徒弟に回されかねないほどの背景持ちの、正に“小悪魔”な男の子。………そいや、どっかの組関係のコネも、持ってなかったでしたっけかね。
【 ♪♪♪〜♪】
さあさ、どうやって料理してあげようかと、舌なめずりの図を連想させるような浮かれたトーンでの鼻歌も楽しげに、絶対有利という雰囲気にて声が途切れて………幾刻か。街路樹のポプラが風に揺れ、秋の陽の木洩れ陽を光のモザイクみたいなまだら模様にして、足元へとちらちらと落としてくれている。信号がそろそろ変わるぞという意識の下に、こちらさんも運転の方へと頭を切り替えかかってたタイミングへ、
【 あ〜〜〜〜っ、しまった〜〜〜っ!!】
「な、何だなんだ。」
いきなりの大声に、声の大きさは関係しない仕様な筈のイヤホンが大きく震え。そんな唐突な攻撃にあっては、ハンドルこそ切り損ねたりしないで済んだものの、相当に驚きはしたらしい総長さん。何事かと自分の背後を窮屈そうに振り返ろうとしたところへ、
【 どうしよ、ルイ。携帯を置いて来ちまってるよう〜〜〜。】
あらあら、それは確かに大変かも。坊やにとっての万能ツール、鬼の金棒、魔法少女のバトンにも等しいアイテムだったのに。
「………おやおや。」
こらこら、総長さんたら。どういう反応ですかい、それってば。(苦笑)
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*ああう、こっちのお話も一ヶ月をまたいでしまってますね。
なんて長い1日なんだか。(苦笑) |