Summer-Garden F
 

 

          
その7



 高尾山の中腹、ゆるやかな傾斜に見晴し良く広がる高原の入り口辺りという片田舎。企業の保養所や別荘なんぞがぽつぽつと点在するそんな中にある、小さな小さな合宿所。その正門にほど近く、下足用の小さなロッカーが並んだ昇降口まで出かかっていたところの…Tシャツにトレーニングウェアという姿こそ似ているものの、上背には大人と子供くらいの格差がある
(笑) 若い衆二人連れに気がついて、
「今から買い出しかい?」
 風通しのいい木陰に腰を下ろして休憩していた職員さんが声をかけてくれた。はいと会釈すると、
「暑いから自転車を使って行きなさい。」
「え? でも…。」
 先程、誰かが口にしていたが、ここの備品としての自転車は1台しかない。いくら人の目が少なくても二人乗りは不味かろうし、まさかこういう施設の職員がそういう"違反行為"を勧めるのもどうかと。二人して顔を見合わせていると、気さくそうなおじさんは、
「大丈夫、私のを貸すから。」
 日向に立つ彼らの健やかな姿にか、眩しそうに目許を細め、にこやかに笑ってそんな風に言ってくれたのだった。





 今や、マックが無い町はあってもコンビニが無い町は それこそなかなか無いとかで。そこはかとなく鄙
ひなびたJR駅の裏手、元は酒屋さんだったという結構年期の入った店舗は、だが、
「わあ、涼しいなぁvv」
 自動ドアを入ると冷房も程よく利いていて、ガラス一枚を隔てた外とは別世界のようだった。久々の冷房に一心地ついてから、さて。買い出しと言っても、毎日の食料品だとか、洗剤・シャンプーといったトイレタリー関係の消耗品などは、合宿所で契約した店が一括して配達してくれる物品だから対象外。設備備品も施設管理の方々の担当物品なので自分たちが補充する必要はなく、
「えと、単3と単4の乾電池と、ミネラルウォーターと、ネットで頼んでたプリンターのインクと専門雑誌。記録用ディスクにA4版のPPC用紙2包、バンテージ用の固定包帯とサージカルテープと氷嚢。それから…。」
 メモに記されてあった品々は、成程、コーチが懸念して下さった通り、結構な大きさと重さの山になった。乾電池とミネラルウォーターの箱買い、プリンター用紙が特に重い。だが、
「山の上の合宿所でしょう? 何なら配達しますよ?」
 お店の人も慣れているらしく、レジでの清算をしながらそんな声をかけてくれた。インターネットでの取り寄せをした商品の伝票の名義が"協会"になっていたことで、気を回してくれたらしい。
「最近は女の子の合宿なんかも増えましたからね。」
 そんな場合、大きなもの重いものは持ち帰れないからと、配達を依頼されることが少なくはないのだそうで。
「もっと奥の方、企業の保養所なんかへも配達に回ってますからそのついでですしね。昼の分がすぐにも出ますから、安心して下さいな。」
 なかなかサービスの行き届いているお店だったので、それじゃあとお願いして。
「すみません、せっかく来てもらったのに。」
 それぞれが手に提げた残りのお買い物の袋もまた嵩があって大きいが、自転車に積むならそれほど重い訳でもない。それより何より、午前中の総合トレーニングをこなした進さんには、練習での疲れを休めてるべき時間だったのにと、店を出てから恐縮そうにぺこりと頭を下げるセナへ、
「………。」
 相変わらずの無言と、感情の乏しい表情のままながら、

  ――― ポンポン、と。

 その大きな手でお帽子の上から頭を軽く叩いてくれた進さんで。気にしなさんなといつもの優しいお顔を見せてくれる人。屈強頑健な体躯に相応しく、鋭角的な目許や凛と結ばれた口許の、それはそれは精悍で男臭いお顔だのに。刷毛
はけで淡く淡く刷いたような笑みを、大人びた頬にうっすらと載せていて。そんな彼だと ありありと見分けられたその途端に、
「えと。/////
 セナくんの頬がかぁっと熱くなったのは…冷房が利いていたお店から出て来たからってだけではない筈だと思う筆者であった。
(笑)



            ◇



 ゆるやかな傾斜を風を切って、軽快に自転車を転がして。来る時は下りだったから一気に向かったが、帰りは上り坂なので…途中の木陰で中休み。この合宿の初日に、蛭魔が蝉もろとも葉っぱを撃ち落とそうとしたあの大樹であり、今日は蝉もいず、濃色の木陰はあくまでも静か。梢の先が時折吹き寄せる風にさわさわと揺れているばかり。
「………。」
 樹の幹に凭れてはふぅと息をつき、貸してもらってた帽子を団扇代わりにパタパタと扇いで。顔へと風を送っていると、
「はにゃっ☆」
 不意にひんやりしたものが頬に当てられて、セナくんびっくり。反射的に逃げるように身を引いてから…あらためて見やれば、
「…あ。」
 冷たかったのはオレンジの缶ジュース。よく冷えたそれを、上の縁を指先だけで支えてぶら下げていたのは、進である。
「暑かっただろう。」
「あ、はい。」
 さっきのコンビニで買っておいたらしく、眼前で"どうぞ"と軽く揺すって見せるそれを、
「すみません。」
 ひょこりと頭を下げつつ受け取ると、彼の方は烏龍茶の缶を開けて見せる。大切な人へは気を遣って当然…とはいえ。この気配り、アメフト・ターミネイターみたいな進さんには、どう考えても柄にないことなような。
"そ、それはちょっと…。"
 言い過ぎだって? まま、話は最後までお聞きなさい。くどいようだが、暑い暑い真夏には水分補給も必要です。熱中症や日射病は命にかかわる症候群。どんな頑健な人であれ、注意し過ぎるってことはありません。進さんとて、そっちの知識からのアプローチもあったればこそ、こんなにも細やかに気を利かせることが出来たというところなのかも。小理屈はともかく、ぬるくなる前に さあ飲んで飲んでvv
「………。」
 こくりと一口。冷たい果汁を口に含めば、頬や首条の火照りもすうっと引く。缶を持つ手もひんやり涼しい。舗装されていない田舎の畦道。最寄りの駅と保養所や合宿所をつなぐ一本道は、密度の深い青空の下、左右を青々とした広い草原に挟まれていて。力強い緑の海原が吹き渡る風にざわさわ揺れる様はなかなか涼しげで圧巻で。これが麦畑だと分かったのは、地元へ帰ってからのことだったが、それはさておき。
「………。」
 どこか遠くの木立ちの中で蝉が鳴いている声がする。間断のない単調な鳴き声は、遠い遠いところからの音だからか、自分たちの周辺の静けさが尚のこと際立っているような気さえして。大きな樹の木陰の下。スタンドで立てた自転車の傍らで、ぼんやりと。草原をわたってゆく風の音なぞ聞いていると、

  「何か、気になることがあるのか?」

 不意な声がした。声の主はさっきからずっと一緒にいた人で。
「え?」
 訊かれたその声でハッと我に返って。それから。そのお声の紡いだ言葉の意味を、遅ればせながら飲み込み直して…。
「…えと。」
 そんなことないですようと、一笑に伏すことが出来ないセナであり。そんな態度がそのまま、彼からの指摘が"図星"であったと、他でもないセナ自身へも思い知らせた。
「………。」
 そぉっとそっと。訊いた人のお顔を見上げてみれば、
「こんな忙しい所に来てまでぼんやりしてるなんて、余裕だなと思ってな。」
 ちょっと言い回しが変だったが、周囲に過ぎるくらい気を回すセナだのに、そんな周囲をうっちゃってまでぼ〜っとしているのをよく見かけると、そう言いたい進であるらしい。主務としてのお顔になってフィールドから離れている間でも、時々何かしら考え込むような、自分の胸の裡
うちをまさぐっているような顔になる。そんなセナだと気づいていた進であるらしく。そうか、桜庭くんに指摘されるまで、他の連中からセナくんへの関心の眼差しというものへ とんと気がつかなかったのは、あなたの眸、セナくん本人にだけ集中して向いてたからなのね。知らん顔しつつ、本人とは視線が合わないように注意しつつ、でもでも実は。…そういう事をしとったんだね、ふ〜ん。(苦笑) ………で。そうと訊かれたセナの側はといえば、
「えと…。」
 違いますようと言えなかったのは、やはり。彼からのその指摘が的を射ていたからに他ならない。そう。昨日からずっと、何だかむずむずしてた。その最初は、チームに分かれてのフォーメイション練習の後のことだ。司令塔のクォーターバックさんはいつもの蛭魔さんじゃなかったけど、壁
ラインになってくれた人たちも、露払いの前衛役として前を走ってくれた人も他校の選手だったけれど。それでも何ら遜色は無いまま…進さんのタックルに引き倒された一回以外は、相変わらず無敵な"光速の疾走ラン"を披露して、思い切り走り回った。そんな練習への参加の後で、何となく胸の奥に閊つかえていたもの。それから以降も、フィールドの外から見ていたトレーニングへ脚がむずむずしては、はっと我に返る繰り返し。その度ごとに何となく、胸の奥にもぞもぞとした違和感が染み出して来て。
「…あの。」
 思うところがあるのなら言ってごらんなと、そんな風に水を向けられたものの、そこはさすがに…ちょこっと躊躇を見せたセナだったが、
「………。」
 急かすでない、だが、真っ直ぐな、進からの逃れようのない視線に搦め捕られて。重い口をようやっと開いた彼だった。
「ボクは"アイシールド21"としてしか認められてはいないんだなって。時々それが…なんだか…その。」
 訥々
とつとつとした口調は、自信のないことや相手に叱られそうなことを、言葉を探しながら恐る恐る口にしているという様子であり。まさか今更、進に対して"こんなことを思ってたなんて知られたら叱られるかも"というようなこと、恐れているセナではなかろうから。恐らくきっと。彼自身も見ないでいようとそっぽを向いていた悪あがきが仇になり、その不快な"むずむず"の正体や真意に膜がかかったようになっていて。今になって、少しずつ掘り起こすその作業をややこしいものにしているのでもあろう。一方で、
「?」
 進とても、功名心というものをそうそう悪いものだとは思っていない。それにばかり気を取られるのはどうかとも思うが、実力を上げるための目標というか、励みにはなる。………ただ。

  《 小早川瀬那という個人を顧みられないことがイヤだ 》

 この少年がそんなことに執着するのは、さすがに…どこか不自然な気がしたのも否めない。臆病だとか自信がないとか、そういうことの裏返しには良くある願望。それでも、何となく。この…気立てのやさしい、そのくせ、頑張り屋さんなセナが。物事を表面だけで捉えたりせず、奥深いところまで相手を理解しようと構えて、精一杯両腕を広げてくれる懐ろの深い少年が、そのような表面的なことにこだわって立ち止まっているんだなどとは到底思えなくて。………そして。彼が言いたいのは、やはりそういう意味の事柄ではないらしいと分かったのが、

  「皆、何かに気を取られないで、全力で頑張っているのに。」

 細いながらも懸命な声が、そうと続いたからだ。何かに憚(はばか)られることもなく、何かを誤魔化すこともなく。練習に試合に全身全霊であたり、素顔のまま伸び伸びと駆け回っている皆なのに、

  「ボクだけは…名前や素性を偽ってて。
   最初の試合からずっと、フィールドに嘘を持ち込んでて。」

 ホントは弱虫で自信もなくて。アイシールドという仮面をかぶることで、皆より多く鎧を着ることで、やっと何とか同格のプレイヤーとしてフィールドに立てている自分。自分一人だけが"ズル"をしているんだなと。昨日の練習で、選ばれた人たちの中に混ざってみて、そんな現実をまざまざと痛感してしまったセナだったのだ。

  「………。」

 心の中に充満していた曖昧な想い。それを少しずつ少しずつ爪繰
つまぐりながら、言葉という"形"にしたことで。錠前にぴったりと合う鍵が生まれて、それを差し込まれた何かの枷が外れたような。何だかそんな気持ちがしたのは、

  「…っ。」

 ぽつって。目許から何かが落ちたから。視野が歪んでて、見下ろしてた土の道がゆらゆら揺れてる。

  「あ…。」

 自分でもびっくり。涙が出るほど、何かが胸に一杯になってたらしくて、
「…。」
「す、すいません。」
 無言のままに進さんが差し出したハンカチを素直に受け取ると、そのまま…上体を抱えられるようにされて。凭れていた樹の根元に座りなさいと促された。手にはまだ少し冷たい缶の感触。背中にはTシャツ越しに堅い樹皮の感触。そしてお隣りには…やはり腰を下ろした進さんの、温かい存在感。これも甘えかもしれないが、やさしく聞いてくれる人がいると思うと、一度あふれた想いはもう止まらなくって。
「ボクがあのアイシールド21だって言わない方が良いって理屈は分かってるんです。でも、何か。隠し事してフィールドに居るのが、何だか心苦しくて。」
 やっぱり何だか意気地のない自分。ホントは自分なんかが進さんたちと同じフィールドに立つのって、物凄く身の程知らずなことなんじゃないのかな。選りすぐりの人たちばかりが集
つどっているこの合宿で、そんな事実の痛さをひりひりと感じてしまったセナくんで。
「………。」
 まるで万華鏡みたいに色濃い緑が重なり合った梢は、彼らの上へチラチラと木洩れ陽を落とす。光の欠片と木の葉の形の陰とが、モザイクみたいな模様を地面に落として躍っている。遠くに聞こえた蝉の声まで、いつの間にやら押し黙り。風の音だけが耳にざわざわと届くばかり。………そんな静寂の中に、ふと。
「………小早川は。」
 すぐ傍らから、進さんの響きのいいお声がした。

   「小早川はフィールドに立っている時、何かしら取り繕っているのか?」

   「………はい?」

 果たしてこの人は、今までの話をちゃんと聞いていたのだろうかと。いや、そこまでのことを思ったのは筆者だけですが、
「…えと。」
 いきなり何を言い出したのかなと、それこそ真意を掴みかねて、即答出来ないでいるセナへ、


   「何かしら"隠すもの"とやらを、見せないように庇って庇って。
    身を縮めていたり、気を回してみたりしていて。
    それが理由で、試合中に全力を出し切れずにいたりするのか?」

   「………あ。」


 今やっと、進の言わんとしていることが分かった。フィールドの上でまで何かしらを憚って、それがために窮屈な想いをしているのかと。そうと訊いている進さんであり。それを理解したと同時に、何かが…胸の中で閊
つかえていた塊りみたいなものがするすると解けてゆくような気がした。だって、
「そんな余裕はありません…。」
 なりふり構ってられないくらい、しゃにむで懸命で、そして全力で。何も考えず、全身全霊を投じて当たっている自分だと、思い出す。フィールドの上で嘘なんてついてない。そんなこと出来るまでの余裕なんてない。
「フィールドの外で、自分があのアイシールド21だと公言出来ないことと、フィールドの上で何かしらの嘘をついているということとは同じではない。」
 低くて張りのある、セナの大好きなお声で、ゆっくりと説明してくれる進さんで。
「小早川だと名乗れないことがプレイにも響くようなら、それこそ切実に考えねばならないのかもしれないが、そうではなかろう。」
「はい。」
 厳密に言えば声色を使っているものの、それにしたってプレイ中のことではない。ゲームが動いている間、GOサインに乗って駆け出した身に、足枷となる制約なんてもの、貼りつかせたことは一度もない。それでも見破れた進さんには、結局のところ…素直に"はい、あれは自分です"と認めてしまったセナくんだったのだし。
(笑)
「本意からではない嘘をつき続けていることが重荷なのは分かる。」
 誰かのせいにするのはイヤだから。主将である蛭魔に強要されたからだとか、そんな風には思いたくなくて。自分の決心から始めて、自分の判断で続けていること。よって"自分の責任下でつき続けているウソなのだ"と、ついついそんな風に思いがちになっていた瀬那。
「だがな、それはあくまでもフィールドの外での話だ。小早川の力量やプレイとには因果関係はないのだから、気に病むことはない。」
 これもまた、厳密に言えば色々と…取っ掛かりようというか、揚げ足の取りようは幾らでもあるよな解釈ではあるのだけれど。
"…進さん。"
 今のセナが一番尊敬し、一番信頼している人からの言葉だ。だから彼の考え方に何が何でも盲従するというのではなく、でも。神聖なものだとしている、その崇高なるフィールドで、嘘も見栄もなく、これでもかというほどの底力を出し合って凌ぎを削り合ってる間柄。最も虚飾のない剥き身で向かい合い、渾身の力だけをまとってぶつかり合ってる人だからこそ、そんな彼からの言葉には、一番に説得力があるし、信じようと素直に飲むことも出来る。
「進さん、あの…。」
 腰を下ろしたことで少しだけ、目線の高さが追いついた大きな人。すぐ傍らに感じる大きくて優しい存在感へ、小さなセナくん、ぴょこりと頭を下げた。

   「ありがとうございます。/////

 あっけないほど簡単に開けた視野。頑なな思い込みに捕らわれてしまって、他の角度からの見方というもの、まるで気がつかないでいた。嘘をついてるなんて狡いと、そればっかりを思い詰めていた。でも。他でもない進さんに、本意からのものではないということをちゃんと分かってもらえてて。狡いどころか、重荷だろう辛いだろうと、外から見ている分には"ハンデキャップ"に他ならないと教えてもらった。
「一人で考え込んでちゃダメですね。」
 大好きな進さんが、こんなところでも力になってくれたのが何よりも嬉しい。どこか切なそうな、それこそ言い表せない何かにもどかしそうな…きゅう〜んというお顔をするセナに、
「いや…。」
 大したことではないと、進は言葉短く苦笑する。というのが、彼の側も…実は実は。仏頂面のその陰で、かなりのボルテージにての歓喜を覚えている様子。率直で真っ直ぐな彼だからこそ、見たまま感じたままの感触から導き出せた答えではあるが。そして、この小さな愛しい人の苦悩を取り除けたという誉れは、正直、彼にとっても嬉しいことだが。それ以前の問題として。別な達成感が彼の心を温かく満たしている。強いて言うなら…こんな内面葛藤の話を、自分だけの重荷としないで話してくれて嬉しかったというところか。
"………。"
 相変わらずに遠慮や何やがついつい出るセナであり、困らせるばかりな"相談ごと"を進へと振り向けてくれたことなぞ、これまでに一度もない。頼っていないというのでは決してなく、迷惑をかけたくはないからだと、大切な人の負担にはなりたくないと思う気持ちは理解出来るものの。困ってますという様子だけを示されているというのも、これでなかなかに苦しいもの。
"………。"
 そもそも。どんなに果敢で激しい衝突をした試合の後であっても、フィールドを離れれば心優しい少年に戻る彼であることを知っていて。そんなプレイヤーは特に珍しいものでなし、試合は試合と割り切っていればこそ、そんなセナにもさして違和感を感じたことがない進であり………って、あれ?
"………。"
 その実力を認めていればこそ、フィールドに叩き伏せることへ全力であたりたいと闘志を剥き出しにする相手と、やさしげで心許なくて、この身をもってしても大切にしたいと思う相手とが同一人物だということへ、全く違和感を覚えない自分もまた、どこか感覚がおかしいのかもしれないが…と、今頃になって気づいた進さんで。………おかしいんだろうね、世間様ではしっかりと。
(笑)








  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


 くすぐったそうに微笑いつつ、元気も回復したセナは、だが、
「…そういえば。」
 別な何かを思い出したらしくて。
「?」
 言ってごらんよと、目顔で促す進さんへ、

    「昨夜の騒ぎ、
     蛭魔さんが居たのは分かりますけど、
     進さんや桜庭さんまでボクのこと探してくれてたのは、どうしてですか?」

 ………そういえば。セナくんて、一番の当事者でありながら、彼らの間でネタバレしている事実を知らされてなかったんでしたっけ。セナの行方が知れなくなったこと、蛭魔がどうして進や桜庭にまでわざわざ知らせたのかが、今ひとつ判っていない彼であったらしいのだが、
「ああ。それはだな…。」
 進から、とっくに蛭魔は知っているのだと聞かされた。セナとの連絡が取れなくなった入院騒動の時に、気を回した桜庭がそれとなく様子を探りに行ってくれて。だが、そんなことから…こっちから露見したというよりも、彼自身からして既に薄々気づいていたらしいと聞いている進であり、

  「………ふわ〜〜〜。/////

 セナとしては、それならそれで。別の心配…というか疑問もあるらしい。

  "どこまで知ってるんだろう、蛭魔さん。"

 アイシールド21の素顔を彼らにバラしたこと、そして進さんや桜庭さんと仲良くしていること。無難な話として、どうやらそこまではご存じであるらしいが、ただのお友達というより もうちょこっと深くお付き合いしていることまでは? 夜中に消息不明になった自分がそこに居ないかと、彼らの部屋を急襲した彼だったということは。もしかして…そこまでもを把握している彼なのだろうか。
"でも、それって…。/////"
 馴れ合うような形で試合に支障は出していないのだし、そういうのは蛭魔にだって通じている筈だとして、
"あ、でも。"
 この合宿の前、もうそろそろアイシールドは外しても良いのでは?と栗田が進言したのへ、

  『いいや、出来る限りは粘った方がいい。』
  『謎めいたところがあるのもまた、
   相手への威圧っていう相乗効果を見せてることなんだしな。』

 高校アメフト界に現れた謎のヒーローが実は…こんなにも気の弱いセナなのだとバレたなら、相手への睨みが効かず、相手に舐められるのは間違いなくて。それで、まだまだ粘れと蛭魔から言われた。………なのに。彼らにはバレているのに、それに気づいてもいたのに、敢えてセナへと何かしらの注意はしないでいた彼だということは(だからセナはずっと気づかないでいたのだ)、進や桜庭に何にも案じてはいなかった彼だったということでもあろう。
"これって、お付き合いしてても良いぞってことなのかな。"
 別にお姑様ではないのだし
おいおい、本来ならばこんなことへまで主将の許可が必要とも思われないのだが、彼らの場合はちょこっと特殊な秘密を共有してもいるので話がややこしい。(まったくだ/笑)
「………。」
 新しい問題へ"う〜ん、う〜ん"と頭を抱え込むようにして唸ってしまったセナに気づかれないよう、声を出さぬように小さく笑って。大きなのっぽのラインバッカーさんは、愛しい人のすぐ傍ら、こうして一緒にいられる幸いを、しみじみと堪能していたのであった。




   ――― 熱中症にならないように、早く宿舎へ帰るんだよ?






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 *このお話の中でこれを扱うのはどうかとも思ったのですが、
  (原作でそのうち出て来るんじゃなかろうかとか思いまして)
  まま、ウチのお話は一年先行していますので、どうかご容赦という事で。
  それにしても、ウチの進さんは結構喋る人ですよね。
  寡黙だという設定が泣いております。
(笑)