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東京書籍版「新しい国語1」より引用しています。

    原っぱ     長田 弘

 原っぱには、何もなかった。ブランコも、

遊動円木もなかった。ベンチもなかった。一

本の木もなかったから、木蔭もなかった。激

しい雨が降ると、そこにもここにも、おおき

な水溜まりができた。原っぱのへりは、いつ

もぼうぼうの草むらだった。

 きみがはじめてトカゲをみたのは、原っぱ

の草むらだ。はじめてカミキリムシをつかま

えたのも。きみは原っぱで、自転車に乗るこ

とをおぼえた。野球をおぼえた。はじめて口

惜し泣きした。春に、タンポポがいっせいに

空飛ぶのをみたのも、夏に、はじめてアンタ

レスという名の星をおぼえたのも、原っぱだ。

冬の風にはじめて大凧を揚げたのも。原っぱ

は、いまはもうなくなってしまった。

 原っぱには、何もなかったのだ。けれども、

誰のものでもなかった何もない原っぱには、

ほかのどこにもないものがあった。きみの自

由が。

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