タイムマシン:
始めは「空間・時間」と称して、他の道具も一緒に考察しようと思ったのだが、文章が長くなったのでタイムマシンだけ独立させた。
タイムマシン、それはSFアイテムの代表格でもあり、そして実は原理がさっぱり分からないものナンバーワンでもある。
まずドラえもんの話に入る前に、そもそも一般的にタイムマシンは時間移動中に空間移動をするかどうか、ということを考えたい。これはささやかなようでとても重要なことだ。
多くのタイムマシンSFでは触れられないことだが、そもそも10年後の同じ場所、というのは何をもって同じ場所とするのか?
日常的な感覚では、同じ町の同じ家の同じ部屋(もしくはその部屋があった場所)ということになるだろうが、よく考えてほしい。
地球は自転も公転もしているし、太陽系は愚か宇宙全体が時とともに動いているのだ。公転軌道上の地球の位置だけ見ても、季節が違えば変わってしまうはずだ。
本当に絶対的に空間移動をしていないのなら、タイムマシンから降りた人間は相当な確率で宇宙空間に投げ出される計算になる。
が、実際にこの問題を扱ったSFは、一作品しか見たことが無い(その一作品は藤子・F・不二雄氏のSF短編である)。他のタイムマシンではそこは問題にならないのである。
これは何を意味するか?
答えは即ち、タイムマシンも重力の影響を受ける、ということである。 時間移動をしている間もタイムマシンは地球の重力に引っ張られ、普通の物体が地球上にあるのと同じように地球と一緒に動いているのである。
ドラえもんのタイムマシンも勿論例外ではない。
ドラえもんのマシンはさらに、この重力の影響範囲内で空間移動が出来るらしく、日本国内の別の場所や外国にも出口を作ることができる。ますますもって原理がさっぱりだが、とにかくそういう事らしい。
さて、作品中に出てきた表現を見てみると、あのタイムトンネル(仮称)内には『時空の乱れ』『乱流』というようなものが発生し、それに遭うとタイムマシンのコントロールが効かなくなって変な場所と時間に流されたりするようだ。
他にも、「のび太がタイムマシンの上で暴れたせいで、時間も場所も予定とずれたところに出た」「のび太がタイムマシンの鍵をかけ忘れたせいで、マシンが勝手に流されてどこかの時代に引っかかってしまった」というようなエピソードがある。
これらを見ると、ドラえもん世界ではタイムマシンの進む空間というのは、川の流れのようなものだと推測できる。
上記のタイムマシンが流されたエピソードでも、ドラえもんは過去の方角にずっと遡ってマシンを探していた。恐らく流れの方向は未来→過去と一定で、マシンが動力を使わずに動くとしたら過去の方向しか無いのだろう。
そういえば、ドラえもんの持っているマシンは形が筏を髣髴とさせるし、タイムパトロールのマシンはどう見ても戦艦だ。前者が最低限の装備しかない安物である事は、想像に難くない。
この『川の流れっぽい時空間』という発想は、漫画という表現法と相まって、とても上手く出来ていると思う。直感的で理解しやすいし、話を広げやすくもある。
藤子・F・不二雄氏のこの表現が、日本人の中に「タイムマシンとはこういものだ」というイメージを深く植え付けたことは間違いないだろう。