ES細胞
  「全能性」か「多能性」か、再生医療が私たちに問いかけるもの

2.  「ES細胞」登場

 しかし、物事には裏と表があって、クローン技術の医療への応用の可能性が捨てられたわけではありません。政府の対応は、クローン個体の産生については禁止されるべきだか、この技術そのものは非常に有用なものをたくさんもっている。子宮に着床する以前の胚(エンブリオの段階)ならかまわないかもしれないということで、人の「胚」の研究はあるかもしれないというのがほのめかされており、ES細胞の研究も認められることを含んだ法律となっています。
 

 大人になった人間の細胞は、特定の役割が固定しているので機能が限られていますが、受精から着床までの胚の段階で得られるES細胞は「万能細胞」と呼ばれ人間のあらゆる組織や臓器細胞に変化発展していく総合的能力をもっています。そういう段階の生命を使えば、損傷した骨や血管、神経、皮膚そして臓器のリペア(自己修復)をすることができるということで、いま再生医療に大きな期待がかかっています。
 

 経済雑誌をみると、二十一世紀はバイオ産業の時代と書かれています。バイオ産業の一つが遺伝子を使った様々な医療技術で、ビッグビジネスとなると予想されています。もう一つが再生医療で、主に神戸の関西辺りで研究が大々的に行なわれています。また、京都大学には再生医療の研究所もあります。ここでは、一日も早く不妊治療で不要になった凍結受精卵からES細胞をつくる研究を解禁して欲しい、治らなかった病気をたくさん治すことができると、その計画を申請しており、近々認められる方向です。
 

 たとえばパーキンソン病は、脳の一部の神経細胞が死んでいってしまうために起こる難病です。そこで、失われた組織を細胞でつくって補ってやろう。そのためには人間の胎児より前の状態、受精卵の状態の「胚」細胞(エンブリオ)を使うのが一番いい。そこで注目されるのが、子どもができない夫婦が体外受精して使われなかった「胚」で、その余った胚を使って、ヒトのES細胞を得ることができる。これにいろいろな分化誘導物質を加えてヒトの組織や器官をつくる研究に提供してもらおうというのです。
 

 この再生医療が発達すると、動物のなかで自分と同じ遺伝子をもった臓器をつくらせることができます。そうすると、いまの心臓が弱ったら心臓のミニチュアを動物のなかで作って補ってやることができる。クローン技術とES細胞の研究を結びつけると、そこまでいけるようになったのです。
 

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