食糧増産援助を問うネットワーク

設立までの経緯

2000年2月、南部アフリカ・モザンビークを襲った大洪水の被災者を支援する市民ネットワークとして「モザンビーク洪水被害者支援ネットワーク」(以下モザンビークネット)が活動を開始。活動を進めるうちに、日本政府がモザンビーク復興支援のために15億円の「食糧増産援助」を計画していることが分かりました。

モザンビークネットは「洪水被災者支援に農薬援助は不要」との声をあげ、外務省に申し入れを行いました。さらに調査を進める中で、モザンビークの事例を通じ、「食糧増産援助」そのものに大きな問題があることが明らかになってきました。

外務省は「モザンビークで食糧増産援助を再開する計画はない」と言明していますが、問題はモザンビーク一国にとどまりません。「食糧増産援助」という援助形態そのものの「廃止を含む見直し」を求めるため、モザンビークネットの呼び掛けにより、2002年2月、食糧増産援助を問うネットワークが発足しました。

設立趣意書

「食糧増産援助」(以下2KR)は、「途上国」に対する政府開発援助(ODA)のうち、二国間援助として行われる無償資金協力のひとつで、農業資機材(農薬、化学肥料、大型農機具)を供与するものです。1977年開始以降、アジア、アフリカ、中南米諸国等を対象に毎年200億円の規模で実施されています。十分な事前調査を行わず大量の農薬、化学肥料を供与するこの援助は、農薬の危険性、受注する日本企業の談合や相手国政府による援助物資売却益の不正使用などの不透明性が内外より批判を浴びてきました。

1993年には対カンボジア2KRが「危険な農薬援助」として市民団体からの反対を受け、1994年には「食糧増産援助技術検討委員会」が国際協力事業団(JICA)への答申において、カンボジア2KRに農薬を含めたのは誤りであったとの認識を示しました。さらに同委員会委員長の逸見謙三氏は「農業の専門家が育っていないアフリカの方こそ農薬援助は慎重であるべき」(毎日新聞、1994年8月3日)とコメントしています。にもかかわらず、政府・外務省はその後も年間200〜300億円、うちアフリカに対しては年間70〜120億円(そのうち30〜50%は農薬)もの2KRを実施してきました。アフリカ諸国では、供与された農薬の多くは未使用のまま且つ安全管理が行き届かず危険な状態であり、環境及び健康に悪影響を及ぼす恐れがあると国連食糧農業機関(FAO)は指摘しています。

1997年度の援助でモザンビークに供与された農薬の多くは配布されることなく港の倉庫に山積みにされ、一部は使用期限が切れ、その処分が現在大きな問題になっています。同様の問題はエチオピアにおいても確認され、FAOは「日本の食糧増産援助によってエチオピアに大量の農薬が運ばれ、遠隔地の農村に届く前に有効期限が切れたケースも多かった」と指摘しています。

2KR援助の問題点について、私たちは次のように考えます。

  1. 受益者である現地農民にとっての必要性や相手国の受け入れ体制を十分に考慮せず大量の農薬、化学肥料が供与されている。農薬には人体、環境に対し危険性の高いものも含まれている。
  2. 供与された農業資機材は相手国政府により農業関係者に販売される仕組みであり、高額のため大半の農民は購入できず、商業的農業生産者が購入・使用するなど本来の食糧増産には役立っていない。
  3. 農薬・化学肥料の一部は使用されずに倉庫等で「期限切れ」の状態となり、保管体制や処理の問題など環境に対し膨大なコストを負わせている。
  4. 相手国政府が農業資機材を売却して得た資金(見返り資金)は社会開発のため活用されなければならないが、不正使用や、政府関係者による着服等が指摘されている。
  5. 農業資機材の入札を巡って日本企業の談合が過去に問題になっており、現在も入札は日本商社タイド(日本の商社だけが入札の権利を有する)である。

このような援助が現在も毎年40ヶ国以上を対象に実施されている事態を私たちは深刻に受け止め、各国における2KRの実態を調査し、政府・外務省に対して「廃止も含めた見直し」を働きかけるとともに、よりよい農業協力のあり方を考えるための市民によるネットワークをここに設立します。

2002年2月24日


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