食糧増産援助の見直しを巡る動きと、私たちの見解

2003年5月3日
食糧増産援助を問うネットワーク

私たち「食糧増産援助を問うネットワーク」は、日本の政府開発援助(ODA)の一環である無償資金協力の中で、かねてから内外で問題になっている「食糧増産援助」について、そのあり方を問い、廃止を含めた見直しを政府に働きかける為の市民・NGOのネットワークです。

■食糧増産援助とは

食糧増産援助は、毎年200億円(2002年度予算は128億円)の規模でアジア、アフリカ、中南米等に農薬、化学肥料、大型農業機械を供与しています。1970年代に日本の化学業界の要請で始まったこの援助(*)は、現地の農業の実情を十分に考慮せず、多くの場合事前調査すら行わず大量の農業資機材を供与してきました。その結果、本来の受益者である現地農民の食糧増産には結びつかず、過剰に供与された農薬は配布されないまま使用期限切れの危険な状態となり、深刻な環境汚染を招いて国際的にも批判されています。

*「食糧増産援助」成立の歴史的背景は以下のサイトをご覧下さい。
  http:// www.paw.hi-ho.ne.jp/kr2-net/2kr/

■変える会、「廃止を前提に見直し」を提言

こうした批判を背景に、外務大臣の私的懇談会である、外務省改革に関する「変える会」(*)は、2002年7月の「最終報告書」において、食糧増産援助は「廃止を前提に見直す」という提言を行いました。これを受けて外務省も「行動計画」の中で、食糧増産援助は「廃止も念頭に抜本的に見直す」と明言しています(**)。

*外務省改革に関する「変える会」
2002年2月に川口外務大臣より発表された外務省改革方針「開かれた外務省のための10の改革」を受け、3月に発足した、一連の具体的な改革措置を検討し進捗状況をモニタリングするための第三者からなる外相の懇談会です。詳細は以下のサイトをご覧下さい。
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/kai_genjo/change/

**外務省改革に関する「変える会」最終報告書
この報告書内V-2-(4)にて『食料増産援助(2KR)の被援助国における実態について、NGOなど国民や国際機関から評価を受けて情報を公開するとともに、廃止を前提に見直す。』という表現が盛り込まれました。最終報告書は以下のサイトでご覧いただけます。
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/kai_genjo/change/saishu.html

■外務省による「見直し」に対する疑問

2002年12月25日、外務省より「食糧増産援助の見直しについて」が発表されました。「見直し」結果とは、1)農薬供与のみ原則廃止、2)農薬を除く農業資機材に関してはモニタリング・評価体制の強化を通じて継続、3)2003年度予算については、対本年度比で60%削減、4)引き続き適宜見直しを行う、というもので、現行の食糧増産援助の制度的枠組みは変更せず、「廃止を前提に見直す」とした「変える会」提言とは程遠い内容になっています。また、私たちが要請した「市民参加のもとでの見直し作業の実施」は受け入れられず、40ヶ国を超える援助対象国のうちわずか6ヶ国の現地調査と外務省内での議論だけで見直し作業の結論が出されたことから、見直し作業のプロセスにおいても問題があると私たちは考えます(*)。

その後、この見直し結果を踏まえて各国の要請を審査したところ、アフリカ諸国については実施できる案件が皆無であったとの情報を外務省無償資金協力課より得ました。また、原口一博衆議院議員より提出された見直し結果に関する質問主意書に対しての政府答弁(**)に私たちも注目しておりましたが、外務省が見直しの為に行った6ヶ国調査の具体的内容には言及されず、2003年度予算における「60%削減」の積算根拠も示されませんでした。

*外務省発表及び私たちの見解については以下のサイトをご覧下さい。
  http://www.paw.hi-ho.ne.jp/kr2-net/mofa/2KR-minaoshi.html

**質問主意書と政府答弁
質問主意書とは、国会議員が書面で内閣に質問できる制度で、国会の会期中にのみ文書を提出することができ、内閣は、質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁をしなければなりません。原口議員提出の質問主意書及びそれに対する政府答弁は以下のサイトをご覧下さい。
  http://www.paw.hi-ho.ne.jp/kr2-net/kokkai/syuisyo3-toben.html

■外務大臣宛に要請文を提出

以上の経緯を踏まえ、私たちは4月16日、外務大臣宛に以下の要請文(*)を提出しました。


2003年4月16日
外務大臣 川口順子様

食糧増産援助を問うネットワーク
共同代表 田坂興亜  今井高樹

食糧増産援助の見直しについて、私たちの見解と意見交換会の要請

昨年12月25日、貴省より「食糧増産援助の見直しについて」が発表されました(これに対する私たちの見解は、12月30日付声明文にてご案内した通りです)。その後、見直し作業のため凍結されていた2002年度食糧増産援助案件について、見直し結果を踏まえて各国の要請を審査したところ、アフリカ諸国については実施できる案件が皆無であったとの情報を貴省無償資金協力課より得ました。

また、見直し結果に関して原口一博衆議院議員より提出された質問主意書に対する政府答弁について私たちも注目しておりましたが、6ヶ国調査の具体的内容には言及されず、2003年度予算における「60%削減」の積算根拠も示されませんでした。

私たちは、貴省の見直しが、食糧増産援助のあり方の抜本的な転換からはほど遠く、単なる予算削減、対象国の削減をもって終了しようとしていることを強く懸念します。

私たちは以下の通り見解を表明するとともに、貴省との意見交換会の開催を要請致します。

1.私たちの見解

  1. 途上国、特にアフリカにおける「飢え」の問題は深刻です。食糧増産援助の本来の目的は、途上国の人びと自身による食料生産を支援することによって「飢え」の問題を解決することであった筈です。しかし、農薬・化学肥料・大型農業機械を相手国に大量供与し、現地農民に売却するという食糧増産援助の仕組みは、飢えの解消にはつながらず、農薬による環境汚染、資機材の売却益(見返り資金)を巡る不正、汚職等を生み出してきました。
  2. 国際機関や市民からの批判が増す中で、昨年、外務省は食糧増産援助の見直しを行いました。しかし見直しは、食糧増産援助の制度的な問題点(資機材偏重、見返り資金等)は残したまま、農薬供与の停止、2003年度予算の60%削減、事前調査・事後評価の強化を宣言して終了しています。これは、本来の目的である「飢え」の解消に寄与するどころか、単なる予算削減措置に過ぎません。
  3. 私たちが求めているのは援助のあり方の抜本的な転換であり、「飢え」の原因と、それをなくすための支援の方策を徹底的に究明し、実行することです。具体的には、資機材の大量供与ではなく、食料難に直面しやすい小規模農民が身近で入手できるローコストの資源(麦藁、稲藁、鶏糞等)を活用し、持続可能な農業生産、食料自給ができるよう、国際的な技術協力を中心とした支援を行うことです。
  4. こうした支援への転換は現在も部分的には実施されています。国連食糧農業機関(FAO)を通じたアンゴラへの食糧増産援助は、従来の制度的な枠組みを離れ、貧困農民層の食糧自給のため種子、農具(鋤、鍬)を無償配付して有機農法の指導を行うものであり、この援助の方向性を私たちは評価しています。実験的に導入したこの新たな試みを、外務省はどのように評価し、今後の援助方針にどう活かそうといるのか明らかにすべきです。
  5. (3)で述べた援助のあり方の転換については、相手国及び日本の専門家や市民・NGO、政府、国際機関が協力して調査・研究を実施し、十分な議論を行い、1年程度をかけて具体案を提示する必要があります。その過程は透明なもので、情報は公開されなければなりません。日本はこのための資金をODAとして拠出すべきです。
  6. 日本に求められているのは「飢え」の問題を解決するための長期的、積極的なコミットメントであり、上記のような転換が図られるのなら援助はむしろ増額すべきです。

2.意見交換会の要請

上述した私たちの考え方を説明し、食糧増産援助の問題点の認識を共有し、今後の農業・農村開発協力のあるべき形を建設的に議論するため、以下の通り意見交換会の開催を要請致します。

  1. 今後の半年間に3回程度(目安として5月、7月、10月)の会合を設け、継続的な意見交換を行いたい。
  2. 第1回目の開催までに、6ヶ国調査の報告書を公表されたい。
  3. 意見交換会は、当団体だけでなく、広範な市民・NGOの参加を保障されたい。

以上


*私たちが提出した要請文は以下のサイトでもご覧いただけます。
  http://www.paw.hi-ho.ne.jp/kr2-net/mofa/20030416.html

■今後について

2003年4月23日、外務省改革に関する「変える会」は『「行動計画」を中心とする外務省改革の進捗状況に対する変える会見直し状況最終報告(*)』にて、『農薬について原則として供しないとした点は高く評価されているが、今後、被援助国農民の自立を支援する農業協力への転換を図ることが必要であり、この制度を「無償資金協力の環境社会配慮のためのガイドライン」や「ODA戦略会議」等における議論をも踏まえて、廃止の方向で更に検討すべきである。』との見解を表明しました。私たちは、この提言を高く評価し、外務省もこの提言を受け、「(食糧増産援助)廃止の方向」での更なる検討と「被援助国農民の自立を支援する農業協力への転換」を実行すべきだと考えます。

私たち食糧増産援助を当ネットワークは、2KRの問題点と今後の農業協力の方向性について整理した提言書の作成をしながら、外務省との意見交換会を進め、本当に役立つ農業支援への転換を求めていくつもりです。

*「行動計画」を中心とする外務省改革の進捗状況に対する変える会見直し状況最終報告は以下のサイトでご覧いただけます。
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/kai_genjo/pdfs/minaoshi_k.pdf

以上


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