「モザンビーク緊急及び復興援助に関する要請」について
外務省との意見交換の報告

2000年3月29日作成

モザンビーク洪水被害者支援ネットワーク
アドボカシー班

私たちは多数の賛同者を得て、昨年10月と12月の二度にわたり外務省に「モザンビーク緊急及び復興援助に関する要請」を提出しました。

この要請は、昨年5月のローマ会議において日本政府が表明した30億円の援助の内容について公表を求めると同時に、政府内で検討されていた2KR(農薬、化学肥料、大型農機具の援助)の問題点を指摘し、被災者の大多数である自給的な農民が必要としている「種子」「牛」などを支援すべきであることを提案しています。

これに対して1月に外務省から「文書での回答はできない。但し口頭でなら可能な範囲で回答する」旨の連絡がありました。

納得できる回答ではありませんが、外務省との対話の場を持つことを重視し、2月21日に外務省を訪問し意見交換を行ってきました。
以下、報告致します。

2月21日(水) 19:00〜20:30
外務省250-E会議室にて

出席者
・外務省経済協力局無償資金協力課
課長補佐   小林氏(食糧援助、食糧増産援助担当)
外務事務官 高野氏(モザンビーク担当)
・モザンビーク洪水被害者支援ネットワーク・アドボカシー班
今井、原田、斉藤

※外務省の高野氏はモザンビークほか南部アフリカ10ヶ国
(タンザニア、マラウイ、ザンビア、ボツワナ、ジンバブエ、スワジランド、レソト、ナミビア等)を担当。今回の援助にも関連して昨年5月にモザンビークを訪問したとのことでした。

◆モザンビークに対する30億円の援助内容について

1.外務省側の説明

今回の援助は「緊急」というより「短期援助」として、概ね1年を目処に実施する。

(1)ノン・プロジェクト無償資金協力……15億円
     (モザンビーク政府との交換公文締結 2000年9月21日)

モザンビークの構造調整への支援として「外貨を供給する」援助。日本が用意した「ショッピングリスト」の中から必要な資材を購入してもらい、モザンビークの外貨不足を補う。

リストにないものを相手国が希望した場合にはその都度審査するが、基本的には軍事用品以外は何でも購入できる。一般的には、工業原料(原油など)を購入するケースが多い。

購入品目については相手国との関係上、外務省としては公開できない。モザンビーク政府が公表するのは一向に構わない。

購入先はモザンビーク政府が公開入札をするが、実際にはコンサルティング会社が代行している。

注:コンサルティング会社とは、多国籍企業のクラウン・エージェンツとのこと。

(2)災害復旧保健支援計画……4.91億円
      (交換公文締結 2001年1月19日) 

      

予防接種などに当たってワクチンを保存するためのコールドボックスや冷蔵庫の供与。(機材搬入まで数カ月かかる)

相手国からの要請→調査→判断という流れで動いており、現地への調査は2月と5月に外務省から2人、JICAから4名を派遣して行った。調査の報告書はJICAが保管。

母子保健などは、アフリカ諸国では最重要案件として基本的な支援の方向としては決まっており、今回の洪水のような場合には、それを前倒し的に行うという配慮をしてゆく。

(3)食糧援助(KR)、食糧増産援助(2KR)
    (交換公文未締結)

これは援助の選択肢の一つとして配慮したものであり、2KR=農薬と決まっている訳ではない。

KR、2KRスキームのルール上、モザンビーク国内での調達(内貨支援)はできない。ノンプロ無償援助と同じく「外貨支援」になる。また、支援(資材)の内容も相手国に一任している。

但し、モザンビークへの2KRはモザンビーク側の物資配付体制ができていないので'98以降実施していない。

今回の支援に於いては、2KRは行わない。食糧援助として、モザンビーク政府の要請に基づき米の援助を行う(近く交換公文を締結予定)。日本としても、米の備蓄があるのでやりやすい。

今回は国産米は使わず、タイ米を国際価格に値を落として援助する事に決まっている。モザンビーク政府はこの米を一般の流通経路で販売するものと思われる。

船田注:後日、この「米の備蓄」とは、ミニマムアクセスで輸入して日本に備蓄してあるタイ米のこと。

※モザンビークも含めた国別援助内容は、外務省ホームページ(ODAのページ)で見ることができます。ノンプロ無償、食糧援助・食糧増産援助は、ほかにも多数の援助対象国があります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/

2.質疑、意見交換

・情報公開について

(私たち)
援助内容決定に至る過程、現地調査報告書など公開して欲しい。
(外務省)
コンサルタント会社などに事前に情報が渡ると色々と不都合な点があるため、文書での公開はできない。私たちに電話していただければ検討状況など可能な範囲でお答えする。

・被災者に対し役立つ援助になっているのか?

(私たち)
保健の分野を除けば、ノンプロ無償も食糧援助も「外貨援助」であって、直接被災民の生活復興を支援するものではない。私達が提案した「種子」「簡単な農具」「牛」のような被災民を支援する援助内容は考えていないのか。
(外務省)
現在の援助の仕組みでは相手国への外貨供給が基本であり、相手国政府はそれによって浮いた金(或いは、援助で購入した資材を国内で売却することにより得た内貨)を国内の復興・開発に回すことができる筈。「牛」「農具」の援助もその資金を使ってモザンビーク政府がいくらでもできること。
現地で物資を調達したり現地の人々に直接援助するのであれば、これらの支援とは別枠の「草の根無償資金協力」を活用して欲しい。
  

・2KRの問題点について

(私たち)
モザンビークへの2KRはこれまでも問題があり、倉庫には配布されない農薬が大量に放置され、デンマーク政府からもクレームが出た。
(外務省)
これまでの問題が「すべて日本側の責任」と理解されては困る。我々は調査の上で援助を行っているし、全てがうまくいく訳ではない。デンマーク政府の話については事実無根。

船田注:この件に関して私たちが入手している情報は以下のとおり。

  • 83年から92年までの2KR供与物資(化学肥料・農薬)の行方が全く不明。 97年度のものは、港の倉庫に山積みとなり一部浸水。83年から97年までの支援総額は115.2億円に上る。
  • ・デンマーク国援助機構DANIDAが数年前からモザンビーク国内で未使用及び使用期限切れとなっている農薬処理プロジェクトを実施。
    これまで同国に900トンの期限切れ農薬を確認。
    この確認・処理に合計約9億円を超えるお金がかかり、DANIDAだけの予算では足りない見通し。DANIDAは、過去に需要を超える農薬が供給されたため、このような多量のものが発生したと考える。日本政府の2KRによる農薬もこれにかなり含まれるのではないかという推測から、在京デンマーク大使館が外務省に質問。また、モザンビークでは、DANIDAを含む各国ドナーや国際機関が、この問題をissue化して取り上げ批判、日本側は説明に追われた。
  • <反省>一国をとりあげるのではなく、「国際機関やドナー諸国、NGOらの批判」とすれば良かったです。
(私たち)
しかし、モザンビークでは多くの農民は農薬・化学肥料を使わない農業をしており、そこに農薬を援助するのは理解できない。アフリカへの2KR援助の大部分を日本企業が落札してきたとの指摘もある。
(外務省)
適切な農業指導があれば農薬・肥料は役に立つし、アフリカでうまくいっている事例もある。入札について、今は完全にアンタイドであり、指摘されるようなことは全くない。

不十分ながら、以上の内容で「時間切れ」になりました。

説明を受けて分かったのは、日本政府の援助が私たちが望む「被災者の真に役立つ復興支援」とは程遠いことであり、とても残念です。

説明に対する疑問点、問題点は幾つもあり、例えば

  • 「要請だから」ということで援助内容をモザンビーク政府に一任し、しかも「公表できない」と言うのは外務省の「責任逃れ」であり、国民の税金で行っている援助の内容は公表すべきはないでしょうか。
  • 「モザンビーク政府に資材や食糧を援助すれば、それを政府が国内市場で売却して得た資金(見返り資金)で被災者の援助ができる」という論理は一般市民には理解しがたく(どうして直接被災者に役立つ援助をしないのか)、このような援助の仕組みが相手国の国内市場の歪み、政府関係者の腐敗を生みかねないという点をどう考えているのでしょうか。

そのほか過去の援助の問題点(事実関係)についても質問したいのですが、それだけに終始するのではなく、「今後より良い支援をしていくにはどうすればよいか」という前向きの視点に立って、今後とも外務省との意見交換を続けていきたいと考えています。

尚、外務省側は「今後ともNGOとのコンタクトは取って行きたい。提案があれば是非参考にしていきたい」とのことでした。

最後になりましたが、勤務時間外にも関わらず対応して下さった外務省小林、高野両氏に感謝致します。

以上 (文責 アドボカシー班 今井高樹、舩田クラーセン さやか)


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