モザンビーク緊急及び復興援助に関する要請 第二段

2000年12月22日提出

外務省経済協力局無償資金協力課 殿

「モザンビーク緊急及び復興援助に関する要請」賛同者一同
代表 船田クラーセン さやか

モザンビーク緊急及び復興援助に関する要請---市民から日本政府への要請

    

日本政府はモザンビーク支援のための国際会議(5月、ローマ)において、約30億円の援助を表明しました。内容は
(1)国際収支支援のための無償資金協力(ノンプロ無償)
(2)食糧援助、食糧増産援助
(3)保健、教育分野で子供に裨益する無償資金協力、
の3項目となっています(外務省プレスリリース)。

私たちは日本政府の援助表明を歓迎し、一刻も早く有効な援助が実施されることを望んでいます。しかし、その中で予定されている「食糧増産援助(2KR)」(農薬・化学肥料・大型農機具の供与)は大規模耕作地での機械化農業向けという性格が強く、農業人口の大多数を小農が占めるモザンビークにおいて行われること、特に緊急及び復興援助として実施されることには疑問を感じざるを得ません。

洪水被災者の大多数は自給的な農業を営む農民であり、援助の対象はこのような農民が中心であるべきです。復興のための援助は、モザンビークの農業の実態に即し、現地において実際に必要とされるものでなくてはなりません。

このような立場から、私たちは11月14日に「モザンビーク緊急援助に関する要請」を外務省に提出しました。その後、私たちは「食糧増産援助は今年度の実施は見送られる可能性が高い」との非公式な情報を得ましたが、外務省からは5月のプレスリリースを引き継ぐ援助内容の表明はなされていません。

私たちは、次のことを求めます。

  1. 5月に発表した援助内容について、実施状況を公表すること。未実施ならばその理由、当初計画に対して変更があった場合は変更内容についても公開すること。
  2. 緊急及び復興援助の中で、従来の枠組みでの「食糧増産援助(2KR)」実施を見送ること。
  3. 今後の中長期の援助計画についても内容を公開の上、NGO等の市民の代表と協議する場を公式に設定すること。
  4. 合わせて、国際的な災害救援・復興援助について日本政府の基本的な方針、或いは今後の検討予定について情報を公開すること。
  5. 本要請文について、1月15日までに文書で回答すること。

私たちは納税者として、援助がより多くのモザンビーク国民の利益に資するものとなり、かつ自然環境・生態系を損なわない持続可能な発展に寄与するものとなるよう望むものです。そして今後とも日本の諸団体、農業専門家、モザンビーク現地のNGOと連携を取りながら援助内容のモニタリング、提言を行っていきます。日本政府・外務省としても、被災地の実態についての十分な調査を専門家或いは復興支援の経験のあるNGOと協力して行い、私たち日本の市民との協議も踏まえて援助内容を検討すべきと考えます。
 以下、私たちが考える援助の基本的なあり方と、「食糧増産援助(2KR)」の問題点、そして私たちが得た情報から現地で緊急に必要とされる援助内容を提言します。

1.モザンビーク緊急及び復興援助についての基本的な考え方
  1. 洪水被災者の大多数は自給的な農業を営む農民であり、援助の対象はこのような農民が中心であるべきです。
  2. 1992年まで16年に及ぶ紛争の結果国土は荒廃し、その脆弱な基盤の上に人々は生活を再建してきました。それが今回の洪水により再び破壊されてしまったのです。
    人々が安心して生活再建に取り組むため、まずは「洪水被害の前の状態に回復させる」ことを復興援助の目標にすべきです。
  3. 援助内容は現地の生活や生産の営みに適し、実際に必要とされるものでなくてはなりません。洪水被害にあった人々が何を必要としているかを的確に把握し、なおかつ長期的視点からその効果や影響を分析することが必要です。

以上を踏まえ、「食糧増産援助(2KR)」には次のような問題があると考えます。

2.「食糧増産援助(2KR)」の問題点
  1. 「農薬・化学肥料・大型農機具」の供与は一定規模の耕作面積における近代農業を想定した援助です。農薬・化学肥料を使用してこなかった多数のモザンビークの小農に対して、洪水被害からの復興に際してこれらを持ちこむことは的外れであるとともに、農業のあり方を変質させてしまう危険があります。
  2. しかも、現地政府の「見返り資金」のため2KRで供与される資材・機材が農民に売却される場合は、購買力があり従来から農薬等を使用している商業的大農場のみが受益対象となってしまい、結果的に小規模農民には支援の手が届きません。
  3. 大型農機具は、小規模な農業においては必要でなく、提供されたとしても、スペアパーツの調達などにおいて日本に対する依存が強まり、維持管理において現地の農民の負担が増大します。
  4. 過去、1997年までモザンビークに対する2KRが行われてきましたが、配給システムの不備等によって多量の農薬が農民の手元に届かず倉庫に山積みとなり、危険な状態としてデンマーク政府からクレームが出ています。この農薬は至急処理する必要があり、援助した日本政府としても責任をもってこの処理に関与すべきです。今後についても、配給システムを改善し、必要とする人々に必要な資材が提供されていることを監視するモニター制度(現地NGOなど)が機能しなければ、同様の問題が起きることが予想されます。
  5. 「2KR」だけが食糧増産の手段ではありません。今回の洪水の被災地ではありませんが長年の紛争により同様に被害をこうむったモザンビーク北部の事例では、紛争がなく、農民の土地へのアクセスが保証され、余剰生産物が一定以上の価格で売れるというインセンティブが働けば、農薬・化学肥料の投入がなくとも数年たらず収量は増加し、余剰を輸出するまでになっています。
3.具体的援助内容についての提案

被災者が営んでいた生活の再建という観点から、安心して生活するための基盤作りに対する支援と、食糧生産に直接必要な物資の支援が不可欠です。以下、私たちが現地NGO等から得た情報に基づいて必要性が高いと思われる内容を例示します。

(1)安心して生活するための基盤作り

洪水の未然防止のための堤防や灌漑施設、干ばつに備えた井戸などの建設支援が必要です。灌漑施設や井戸は、できるだけ農民自身による維持・運営が可能なものであることが望ましいと考えます。農業生産物を市場に運ぶための生活道路を補修するといった基本的な輸送インフラ整備も必要です。

(2)食糧生産に必要な物資
・農産物の種子(自家採種可能品種の種子)
最もニーズが高いのは農産物の種子ですが、それはハイブリット種ではなく、自家採種可能な現地適応品種でなくてはなりません。ハイブリッド種の生育には農薬、化学肥料の大量使用が必要となるだけでなく、成熟した収穫物から種子を得て植えても実らない(不稔)ため、翌年は再び種子を購入しなければならず、農民の生活を圧迫することが予想されます。種子が主食に偏っては栄養素の偏りも心配されるので、主食用穀物のほか、野菜、豆類などの種子も必要です。なお、現地適応品種の種子はモザンビーク国内でも流通しており入手可能です。
・簡単な農機具や、農耕用の家畜(牛)
鍬などの簡単な農機具のほか、農耕用の家畜として牛の援助が有効と思われます。洪水前、牛耕を行っていた地域も多くありましたが、洪水で約1万頭の牛が失われたとも言われています。牛は耕作の動力源となり、ミルクを供給し、牛糞は堆肥作りにも活用でき、大変に貴重です。

援助内容については現地の農民、農業関係者、農村で活動するNGOの意向を十分に反映させながら、優先度レポートを早急に作成しなければなりません。必要としている人々に確実かつ迅速に届くよう、現地或いは国際NGO、日本のNGOを通じて援助を行うことも検討すべきと思われます。

4.国際的な災害救援・復興援助に関する日本政府の方針について

今回の援助における日本政府の対応の遅れ、また援助内容の問題点については、国際的な災害援助に関する政府の方針が明確になっていないことが一因であると思われます。阪神淡路大地震をはじめ国内での大災害の経験を踏まえて、国際的な災害救援・復興援助に関する基本的な方針を早急に確立するべきです。今後世界各地で起こり得る災害に際しては、現地の実態に適合し被災者に役立つ援助を迅速に行うため、モザンビークのケースを活かすべきと考えます。

以上


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