公開質問状に対する外務省からの回答について

モザンビークネット・アドボカシー班

8月30日、外務大臣宛てに提出した「モザンビーク食糧増産援助(2KR)についての公開質問状」に対する回答が、11月28日、外務省無償資金協力課より出されました。

 

外務省の回答は、一言でいえば「モザンビーク2KR援助は細部での問題はあったものの、全般的には食糧増産に寄与し、評価されるべきものであった」というものです。
 詳しくは後述しますが、この回答は私たちにとって到底納得できるものではありません。回答について外務省(無償資金協力課)との質疑応答も行いましたが、外務省が「評価できる」とする根拠を突き詰めると「モザンビーク政府及び関係者は感謝してくれている」という点に尽きます。しかし、政府関係者が感謝するのは或る意味で当然であり(被援助国政府が資材の売却益を不正使用するなど「腐敗」を招きやすいことも2KR援助の問題点)、本当に現地の小規模農家にとって役立つ援助だったのか、という点には外務省は触れていません。
 しかし外務省も部分的には「問題があった」ことを認めており(未配布農薬の問題など)、質疑応答の際に「NGOやFAO(国連食糧農業機関)等と合同で2KR見直しのための会議を行いたい」との提案があったことは評価できる点です。

モザンビーク2KRの再開について外務省は「予定していない」と回答しています。しかしアジア、アフリカ、中南米等への2KR援助は年間200億円の規模で現在も実施されており、モザンビークでの問題は「氷山の一角」に過ぎないと言えます。
 2KRという仕組みそのものについて、私たちは継続して考えていかなくてはなりません。

以下、外務省回答と、それに対する私たちのコメントです。

外務省回答に対するコメント
(作成:アドボカシー班)

●FAO統計について

(外務省回答)

I-1.
(1)国連食糧農業機関(FAO)の統計によれば、1984年から1999年までの同国の穀物生産量の増加率は、主要穀物であるキャッサバが145%、トウモロコシが356%、米が221%等となっています。食糧生産は、農業投入による効果だけでなく、天候その他の要因に大きく左右されるため、食糧増産援助によって調達された農業資機材(肥料、農薬、農機等)の効果については明確に説明することは困難ですが、これらの主要穀物の増産の要因の一つとなったと評価しています。

(コメント)

2KR資材がモ国に到着する前年(84年)と最後の資材が到着した99年の2ヵ年だけを取り出して比較するのは、非常に無理があります。少なくともこの前後を含め、年次別の食糧生産量の推移を捉えるべきです。
外務省が用いているFAO資料によると、例えばトウモロコシ(メイズ)の生産量は

千トン  
80 380  
81 370  
82 350  
83 330 干ばつ
84 350  
85 400 最初の2KR物資到着
86 459 80年代後半、内戦激化
87 271  
88 322  
89 330  
90 453  
91 327  
92 132 和平協定
93 533  
94 489 総選挙
95 734  
96 947  
97 1042  
98 1124  
99 1246 (84年対比356%)
00 1019  

一見して分かることは、2KR実施から和平協定までの8年間は生産量は横ばいに近く、和平協定、総選挙を経た後に著しく伸びていることです。当然のことですが、内戦終了後に農業生産に大きく伸びているのであって、84年と99年との生産量だけを比較して「2KRが増産の要因のひとつ」という評価を下すのは無理があり、恣意的と言えるのではないでしょうか。

●見返り資金について

(外務省回答)

I-1.
(3)1983年度から1997年度にかけてモザンビークに対し食糧増産援助として供与された総額115億円(交換公文の供与限度額ベース)は、内戦期及び内戦後の同国の外貨支援に役立ちました。また、食糧増産援助の下で調達された農業資機材の国内販売等によって回収された資金(「見返り資金」)は、同国の社会経済開発のための資金として活用されました。

(コメント)

「外貨支援」は食糧増産援助の目的ではなく(「外貨支援」を目的としているのはノン・プロジェクト無償資金協力という別の援助スキーム)、仮に「外貨支援」になっていても、食糧増産に役に立っていなければ本来の目的が達成されたとは言えません。見返り資金について「同国の社会経済開発のための資金として活用されました」とあるが、具体的根拠が明示されていません。情報公開された外務省内部文書によると、「見返り資金積立実績及び関連資料の入手については、当館としてこれまであらゆる努力を重ねているが、遺憾ながら現在までのところ 入手するに至っていない」(88年、現地大使館からの報告)「(モ政府大蔵省が)過去の見返り資金積立の不履行を理由に支払受権書の発給を拒否」(95年)「(モ政府は)全ての援助関係の積立金をひとつ口座に積立をし、国家の財源のひとつとして使用しているために、2KRの見返り資金を特定するのは困難」(96年)「(見返り資金の)積立が極めて少なく、供与資機材が本来の受益者であるべき農民に届いているのか疑わしい」(97年)「2KRの売却益はそのまま国庫の歳入として処理されており、これまで積立状況の報告はない」(99年)外務省内でこれだけの問題点が指摘されていながら、何故「同国の社会経済開発のための資金として活用されました」と言えるのでしょうか?

●現地調査について

(外務省回答)

II
2.我が国政府は、モザンビーク政府から要請のあった援助資機材の妥当性を、我が国国内における技術的検討、現地調査等を通じて確認し、その調達を認めてきています。

(コメント)

妥当性はどう判断したのでしょうか?供与された農薬の中には毒性が強くWHOの基準で1B(「非常に危険」)に指定されているモノクロトホス(88.89年度供与)も含まれています。農薬の使用法についてのトレーニングはあったのでしょうか。「現地調査」とは、情報公開資料を見る限り相手国政府関係者からのヒヤリングに終始していますが、本当に資機材が農民の手元に届き、安全性は確保され、食糧増産に役だっていることを確認したのでしょうか?資機材の未配布問題も97年の農薬に始まったことではありません。「94年度および95年度援助で調達した農業機械及び肥料の一部は未配布のまま在庫として残っており、(モ)計画財務省は未配布となるような援助を問題視」(96年現地大使館報告)「ここ数年の2KRについてはかなりの供与物資が配布、売却されないまま、倉庫に積まれたままとなっており、農業省が支払うべき倉庫料が累積し多額になっているとの情報がある」(99年大使館報告)「現地調査」をしながら、何故このような事態を招いてしまったのでしょうか。

●食糧生産以外への流用

(外務省回答)

II-2-(1)
(ロ)内戦時においても援助資機材は上記の経路で流通し、基本的にトウモロコシをはじめとする食糧生産に活用されていましたが、内戦が激化した1980年代後半においては、その一部が食糧生産以外にも活用されたとの報告があります。

(コメント)

前回(11/8)外務省との会合では、北部においては資機材の8割が綿花プランテーションに配布されたことを外務省側は認めていましたが、2KR資機材を食糧生産以外に利用することは禁じられており、何故このようなことが起き、継続していたのでしょうか。日本側は当時把握していたのでしょうか?何故問題視しなかったのでしょうか?

●農薬、化学肥料の未配布在庫について

(外務省回答)

II
3.上記2.において言及した1997年度の援助資機材の在庫に関しては、2001年11月15日時点で次のとおり確認されています。
(1)在庫となっている援助資機材(1997年度分)は全体の40%である。

(コメント)

在庫となっているの農薬の中には、期限切れのものが多数あると思われます。日本政府としてどう処理するのかを明確にする必要があります。

以上


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