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「お前、誰だ?」
《私は眠りの妖精です。》
「妖精?」
《はい。人が寝て見る夢の中を渡り歩いて、悪い夢を追い出したり、せっかく良い夢が訪れているのに夢を見ていない深間へと沈み込んでいる人を、夢の浅瀬まで誘い上げたりするのです。》
「ふ〜ん。じゃあ、これは俺の見てる夢なのか?」
《ええと、そうでもあって、でも微妙に違います。》
「??? 何だ、そりゃ?」
《すみません。私が悪いのです。この船へ、あなたの夢へ辿り着いたその時に、うっかり落とし物をしてしまって。》
「落とし物?」
《はい。夢の世界を渡るのに使う、専用の鍵です。あなたがまだ眠っているタイミングにこちらへ渡って来たつもりだったのですが、扉を開けた途端、目を覚ましてしまったのでびっくりして。》
「…扉?」
《人が寝て見る夢の世界はところどころで繋がっているんです。》
「え?」
《その境は扉になっていて、私たちの特別な鍵でなければ行き来は出来ません。》
「なあなあ、俺の前って誰んとっから来たんだ? 俺の夢って、誰のとくっついてたんだ?」
《それは…言えませんよ。それに、いつも同じ人同士でくっついてる訳じゃありません。例えば同じ夢を見た場合だとか、あなたの出て来る夢を見た人のところからだとか。繋がり方もその時その時で違います。》
「ふ〜ん。ややこしいのな。…で? なんでさっき"すみません"て謝ったんだ?」
《あの…。鍵を失なくした私は、あなたの夢から出て行けなくなりました。》
「うん。」
《それで、あの…ホントだったらこの"狭間"には入って来れない筈のあなたがいきなり現れたものだから、びっくりしてつい起こしてしまって。…あの、それで、あなたも此処から出て行けなくなってしまったんですよ。》
「………なんで?」
《いえ、あの、だから。ホントだったらこの空間は私たち妖精しか居られない"狭間"なのですが、どういう加減なのか、あなたが飛び込んで来て。》
「で、鍵がないと、俺もこっから出られない…?」
《…はい。》
「鍵か。鍵なぁ。………そういや、どっかで見たなぁ。」
《どんな鍵ですか? 思い浮かべて見て下さい。イメージを形に出来る空間ですから、言葉での表現が苦手でも大丈夫。絵や図になって空中へ浮かんで来ますから。》
「そか? んと、確か"こういう"形のだ。」
《…それってホントに"鍵"ですか?》
「鍵だぞ。」
《私が落とした鍵は"こういう"のなんですが。》
「あ、そうそう。それだ、そういうの見たぞ、俺。」
《…さっきあなたが思い浮かべたのとこれって、全然形違ってませんか?》
「堅いこと言うなよな。俺、絵ぇ描くの好きなんだぜ?」
《………ホントですか?》(疑)
「そか、あれってお前が落とした鍵だったのか。」
《え? ご存知なのですか?》
「うん。ナミがさ、どこの鍵なんだろって唸ってたぞ。」
《ええっ? あなた以外の人の目にも見えていたのですか?》
「おお。全員でその鍵に合う箱とかドアとか探したもんな。」
《ああ〜〜〜。それでなんですね。どんなに思い浮かべても呼び寄せられず、この場に現れないのは。》
「んん? どういうことだ?」
《あなたが此処に来てしまったのも、そのせいかも知れません。本来、この夢の空間にのみ有るべきものなのに、外の世界にこぼれ落ち、外の人たちに確認されてしまった。形を取ってしまったからこちらへ帰って来られない。そして、その代償としてあなたが引っ張り込まれてしまった。》
「……………。」
《…ショックなのですね?》
「…いや、ちょっと言ってることの意味が、な?」
《もしかしてあなた、ホントに大変なことになってるってこと、判ってなかったんですね。》
「う…と。………あっ!」
《え? どうしました?》
「誰かが呼んでんだ。俺んこと、呼んでる。」
《そんな…外からの物音が聞こえる筈はないですよ。扉さえ消えた、閉ざされた空間になってしまっているのに。》
「いや。これは俺を呼んでる声だ。…それも、これは…ゾロの声だっ。」
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