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それから…人騒がせなお節介だった"客人"はほんの数日だけの滞在で、早々と帰ってしまった。年越し旅行の海外脱出に向かう渡航者たちでごった返していた大みそかの空港で、最後のお騒がせをやってくれて、だ。
『ちょっとあっち向いてな。』
『???』
キョトンとしつつも、またぞろ永いお別れとなる彼らなりの"ご挨拶"、熱き抱擁か何かだろうと、言われるまま素直に明後日の方を向きかけたゾロだったが、
『………あ。』
ルフィの声のカラーにピンと来た反射は素晴らしく、慌てて振り向いたが…遅かった。
『あ、こら、てめぇっ!』
軽く屈みながら小さな顎を指先で支えての軽いキスが離れたばかり。慌てて押しやるようにして引き離し、抱え込んだ少年の口許をコートの袖でぐいぐいと拭ってやるから…おいおい、ゾロさん。
『…ん、ゾロ、痛い。』
あんまり強く拭われることへ抗議の声を上げるルフィを更に抱え込む彼の様子に、
『なんだ、なんだ? もしかして、キ○もまだだったのか、お前ら。』
あれから何日かあったのにと苦笑するサンジに、まんまとルフィの"ファースト○ス"を先取りされてしまったのだから、これは怒らずにはいられない一大事だったが、
『まま、このくらいのご褒美はもらわないとな。』
サンジはサンジでそんな憎まれをあっけらかんと言う。
『それだけの骨折りはしたんだし。』
それに…この愛しい子供を連れて帰れないんだし、と、そう続けたそうな眸をした彼だった。
『じゃあな、また日本へ来る機会があったら邪魔するから。』
『うんっ。ナミさんにもよろしくね?』
別れの言葉をかけるサンジへ名残り惜しげに手を振るルフィと打って変わって、
『もう来んでいいっ。』(こらこら、大人げない/笑)
そんな彼を腹立ち半分に見送ったゾロと、ふと…顔を見合わせ合って、
『…別に何も変わんないけどね。』
肩をすくめたルフィが微笑った。お互いが相手を恋愛対象として把握していたことがあらためて判ったものの、だからと言って目に見えての変わりようはないと、そう言いたい彼なのだろう。腕だって搦め合ってたし、前から結構甘えてもいたルフィにしてみれば、表現方法にそうそう変化の出しようがない。西欧人のサンジとでさえ、頬や額以外へのキスの経験はなかったのに、まさか…実は照れ屋なゾロと、突然気安くキス出来るほどまで進展するのもおかしな話だし。………だが、
『変わったさ。』
ゾロはぽつりと…だが、くっきりした声音でそう言った。
『???』
大きな瞳を見張り、きょとんとして小首を傾げる少年へ、
『だから"自覚した"ってのが、だ。これは結構大きなことだぞ?』
大真面目に言ってのける彼だから、
『んん、そうだね♪』
それがそのまま甘い告白のようにも聞こえて、ルフィは蕩けそうな笑顔で微笑って見せたのだった。………そして、それから幾日か。
「あ、サンジからのメールだ。」
「…こんな日にかよ。」
あからさまに目許を眇めるゾロに苦笑する。何しろ今日は二月中旬、聖バレンタイン・デイだったから。
「バレンタイン・デイを"恋愛限定""女の子だけ""チョコレートの日"にしてるのは日本や韓国くらいだよ? キリスト教での本来は、ただの"愛の日"なんだから。親とか先生とか友達にだって、バラや贈り物を…。」
「判ったって。」
ちなみに、チョコレートを添えて女性からの告白を…という風習をはやらせたのは"メリーチョコレート"という会社だ。
「あ。ほらほら、見て。ナミさんだ。赤ちゃん、もうすぐなんだって。」
ルフィが手慣れた調子でマウスを操作してモニターに映し出されたのは、マタニティドレスを着た見覚えのある女性の写真だった。もともとスリムな体型だった彼女だのに、あんまり目立ってはいないような。
「…いつの写真なんだろ。」
「さあな。女性心理は判らんし。」
実際、どういうもんなんでしょうね。お腹が大きくなるのって幸せで誇らしいことな筈ですが、でもでも"マタニティ・ブルー"というのもありますしねぇ。それはともかく。
「女の子だったら途轍もない親馬鹿になりそうだな、あいつ。」
サンジのことを指してのものだろう、ゾロの言いようにはルフィも同感らしくて、くすくす笑いが止まらない様子。そんな彼が腰掛けている、デスク用の椅子の背後に立っていたゾロだったが、
「言わないと判らんこともあるよな。」
「んん?」
小首を傾げるルフィが振り向きかけたそのタイミング。少しばかり身を屈めて、両の腕の中へ少年の小さな身体を取り込むように抱きすくめた。
「言葉が通じない赤ん坊ならともかくさ。ずぼらしないで、相手にちゃんと言わなきゃいけないことってのもあるんだなってな。」
いくら自分が信じて揺るがぬことがまずは大事だとはいえ、コトは相手があってのもの。相手まで同じポリシーで、同じタフさであるとは限らない。相手の考え、感じ方、価値観。判ってていそうでもホントは根拠はない。勝手な思い込みかもしれない。そうなんだと気づいた瞬間、何も見えない自分に不安になる。聞けば済むことだのに、怖くて出来ない。そしてそれは相手だって同じ。いや、相手の方がよほど不安を抱えているのかもしれない。相手のあることである以上、どんな些細なことにでも心は揺らぐ。ほんの一片ひとひらの言葉でいい。それでどれほど安堵出来るか。たったそれだけで信じる心がもっと強くなれるのに。
―――言わなきゃ通じないことの方が多いのだから。
まして、どうでも良い相手のことではない。
少しでも多くを知りたい、愛しい人のことなのだから…。
「…?」
腕の中、いつもの癖で大きな瞳を見開いて、どこかキョトンとしている少年を、きゅうっと胸元深くへ抱き寄せて、
「好きだぞ。」
耳元で囁けば、含羞はにかみながらも微笑って見せて、
「…うん、嬉しい。」
愛らしい眸の、何にも代え難い宝物。そっと唇を重ねながら抱き上げると、ほのかに体温が上がったか、シャツの襟元から甘い香りがかすかに匂い立つ。
「どんな奴が相手でも絶対に譲らんからな。覚えとけよ?」
「うんっっ!」
春も間近い、だが、まだ厳寒の砂曇りの空。そんな曖昧なものにはすっかり背を向けて、互いの瞳に見とれるばかりな二人である。そこにこそ確たる温もりが宿っているのだからと…。
〜Fine〜 01.11.29.〜02.2.8.
*本当はこのお話、クリスマス企画に使うつもりでした。
(だから冒頭で"初冬"が舞台になっていたりします。)
ところが、
『チョッパーのお誕生日…もしかするとクリスマス前後なんでないかい?』
と、いうことに気がつきまして。(久世さん、教えて下さってありがとうvv)
そいで、この話は次のイベント or 記念日用にとずれ込んだのでありました。
この二人は、ウチで唯一"年齢差"のあるゾロルですんで、(見た目だけですが)
ゾロさんもそうそう簡単には手を出せなかろうと思ってましてね。
それと…Morlin.てば、
周期的にサンルにもちょこっと魅力を感じる変な奴でして、
(カエルさま、見てる? こらこら)
このお話のベタ甘サンジさんにもう一度逢いたかったんですなvv
(さてさて…vv ↓)
*さてさて、今回はまたしても"裏"のオマケがございます。
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どうしても判らない場合は、
Morlin.までお問い合わせ下さい。 |