エスカレーション白い楽譜バナー

by.大久保美籾&狐月

一週間

     −−月曜日−−
「バレンタインチョコを渡すときは、青と緑のリストバンドをつけてね。きっと想いが通じるよ」
 −−青(ナオミおねえさま)と緑(ミドリ)。…どうしよう。
 Dr.リンの風水占いを前に、悩むリエちょわんです。
 ひとりだけ?
 そっちの方向に悩んでるんじゃなくて。
 −−橙(マリ)と黄(アリサ)のリストバンドもしなくちゃいけないのかしら。
 マリアさまなリエちょわんは、そっちの方向に悩んじゃう。
 ああん。どうしよう。わかんない。寒色と暖色をまぜてもいいのかしら。右腕につけるのかしら左腕につけるのかしら。絵は右手首に青と緑重ねてたわよね。わかんないどうしよう。そもそも、オマジナイはキリスト教じゃ厳禁なのに。ああ、いけないわリエ。いかがわしい風水占いなんかに夢中になって。でも。ああ、どうしたらいいのマリア様。
 この娘、抑圧環境下で悩むキライがあって。悩みすぎると…壊れます。
 たとえば。初恋のピアノ家庭教師(男)と母親が同衾してるの見て、全寮制女学院に2学期途中で転入してきちゃうくらい。それまで異性愛者だったのが、女性同性愛者に転向しちゃうとか。
「ただい…ま!」
 部屋にもどってきた、同室のマリ。彼女が目撃したのは。
「ごごーれでぃ、ごー!」
 日本地図の上で、パラパラ踊りながら天気予報をしてる、リエちょわんでした。




     −−火曜日−−
「…なにやってんのよ、リエ」
「あ、マリ。どうしていいか分からないから、踊ってるの」
 平手ぱんち!
 手は口ほどにモノを言わせるマリですから。
「月曜日は、ベイの練習するって約束じゃないの。学生会主催のベイブレード大会は、すぐなのよ。ふざけたことしてないでよ」
「ごめんなさいマリ。わたしが悪かったわ」
「正気に戻った?」
「ええ。双子がそろったんだから、「へんなの踊り」をしなくちゃいけないわ」
「…」
「ほら。こうやってフラダンスみたいに「へんなのぉ〜」って連呼しながら」
へんなの踊りを始めたリエに、再度、平手ぱんち!
「知ってるわよ。LaLaもメロディも読んでるんだから」
「だったら」
「おねがい。やめてリエ。あなたはギャグキャラじゃないのよ」
「でもぉ」
「いくら顔が似てるからって…ナオミおねえさまを巡って、殺し合いするよかいいけど。Natural終わっちゃったからLaLaはどーでもいいのよ、もう」
 だめよマリ。あっちでNG出てる。いまどきのアニメネタでやってんだから、少女マンガ誌ネタ振るなって。
 いまどきの話なら、モスラ呼ぶ歌でもいいんじゃないの?
 おんなのこは怪獣映画なんか見ないんですって。
 それ言うなら、サク大どころか、犬夜叉だってどーでもいいじゃん。しょせんヘテロだし。最遊記もスターオーシャンも無きいま、栄光の火曜日はもう帰ってこないのよ。時代はベイとヒカ碁と激闘ギアTなんだから。
 だめよマリ。ここで、やの字の話しちゃ。とにかく火曜日を踊れって…梅干し冤罪をミドリにおっかぶせた対価? なんの話マリ?
 し、知らないわ。
「さぁ。マリも一緒に踊るのよ。へんなの〜へんなの〜…」
「それだけは、いやぁ」
 同じ白泉社なら塀マンおどりとか、みかんのふにふに踊りとか。
 ほら。つべこべ言ってないで、あっちで踊れって。
 ううう。
「ほら。へんなの〜」「へ、へんなの〜」
 しぶしぶ、へんなの踊りをはじめたマリだった。
 そして。
「リエおねえさま宿題おしえ…て!」
 アリサちゃんにその現場を見られたことは、ふたりにとって、非常にはずかしかったりする。




     −−水曜日−−
「ち、ちがうのよアリサちゃん。リエがムリヤリ」
「…リエおねえさまが、壊れた」
 なによ。わたしの心配はしてくれないの?
 マリ先輩が壊れてるのは元か…痛い。すぐ平手ぱんちするぅ。
 フン。
「なんでもないわアリサちゃん。ちょっと考え事してただけなの」
「なーんだ。じゃ、ボクもお手伝いします」
 おいっ。安心してないでリエを止めなさいよ、とマリがツッこむ前に。
「ボクが入れば3人。「合体」ができます」
「素晴らしいわ! ありがとうアリサちゃん!」
 リエおねえさまとアリサちゃんが意気投合してるけど。マリだけ置き去り。
「…なんじゃそりゃ」
「知らないんですかマリ先輩?」「なにおー!」
「聞いておどろけ見て笑え。われら」
 アリサが応えると、ナマイキな後輩をマリがいぢめそうだったので。にっこり微笑んでリエが割って入った。
「ナオミおねえさまの一の子分」
「マリ、リエ、アリサ!」
 すかさずアリサちゃんが応える。
 んねーって、リエおねえさまとアリサちゃんが手をつないでハモってる。
「うーん。いまいち語呂が悪いわね。やっぱ、リエ図書館最終回「ナオミドリエ」には負けるわね」
「いつからそこにいたのよミドリ」
 マリを無視して、ミドリがアリサちゃんのアタマをポンポンしながら続ける。
「アリサちゃん。合体は根本的にムリがあるわ。黄色いヒヨコちゃん」
「アリサ、おみそじゃないっぴ!」
「あぁツノの話じゃなくて。子鬼めら合体[くみたいそう]できるほど、リエには運動神経がないわ」
「う!」
 ずーん、と落ち込んだリエちょわん。
 ちょっと、あんたたち謝りなさいよ、とツッこむマリを放置して、アリサちゃんとミドリがごそごそ相談してます。
「じゃあ、リエおねえさまに、カルビ丼クレクレを踊らせるんですか?」
「まさか。テリーマンジュニアとおホモだちの筋肉マン太郎はどうでもいいわ」
「じゃあ、憑依合体・春雨の踊りですか?」
「それもねー。問題があるの。ナオミおねえさまに木刀持たせるのはいいとして。わたしが炎担当で、バカマリが氷担当ってのが気に入らないのよ」
「あ。ボクはダウジング妖精つかい、とってもうれしいんですけど」
「あんたたちさっきから何の話してんのよ。そもそも何しに来たのよミドリ」
置き去りマリが、ずうずうしく割り込んできた。
「囲碁の練習しよう、って誘ったの。あんたでしょうがマリ」
「でも、きょおは」
「背後にいるナオミおねえさまをアテにして勝とうってマリ、あんたのその根性が気に入らないわ」
「それを言うなら、いんちきして、ガラの悪いOGにこてんぱんにノされたのはどこの誰よミドリ」
「う」
「ああ。もうどうしてあんたたちはいつもケンカばっかりするの! 教えてくださいマリア様。そうだわ。やっぱ困ったときは踊る。これギャ」
「だめー!」「だめー!」「だめー!」
 ミドリマリアリサの3人で、リエの口を押さえ込んだ。
「それだけは、だめよリエ」「清純派のあなたは、ギャルの鉄則だなんて渋谷系のうたりん娘だけはダメ」「そうですおねえさま。まだ日曜日じゃありません」
「なんだかニギヤカ…あなたたち! 何してるの!」
 部屋の入り口で怒ってるのは、おねえさまオブおねえさま、早川ナオミおねえさまだった。
「リエをいぢめていいのはわたくしだけよ!」




     −−木曜日−−
「なんだかニギヤカ…あなたたち! 何してるの!」
 部屋の入り口で怒ってるのは、おねえさまオブおねえさま、早川ナオミおねえさま。
「リエをいぢめていいのはわたくしだけよ!」
「…」「…」「…」「…」
 しまった。つい、うっかり。
「ごほん!」
 衆人環視のなかで、しらじらしくせきばらい。
 おねえさまレベルが8を越えた者のみが出せる特殊効果「なかったことにする」。
 サイコロの目は、通し。らりほー。
 ナオミおねえさまの周囲には白いバラが咲き乱れた。
(うわぁ。すごいもの見ちゃった)(し、静かにアリサちゃん)
 アリサちゃんは感動して騒ぎ出すところをマリにこづかれて沈黙。リエちゃんは純粋にウットリ。ミドリは素面のまま、それらを観察してる。
(ボク、夜中に目覚めてカードゲームするより、図書館の司書さんのほうがイイナ)(アリサちゃん。ときはもどらないのよ)(だってさー。RPGとかカードゲームとか好きな連中って、他人が自分のコマみたいに動くと思ってカンチガイぶっこいてる、失礼なやつらばっかりなんだもん)(それは偏見よアリサちゃん。ゲーマーにかぎらず、愛に飢えた方には、愛をわけてあげればいいだけのこと。大切なことは、自分が奪う側にならないこと。与える側にいるかぎり、豊かでいられるの)(ふへーい)
「なぁにリエ。ごそごそと」
「ごめんなさいナオミおねえさま。アリサちゃんにマリアさまの御おしえをちょっと」
「まあいいわ。さあ、おまえたちもバカやってないで。そろそろ試験も近いんだから。少しは勉強しなさい」
 バラのアラシがおさまると、おもむろにナオミおねえさまは切り出した。
「とくにマリ。学生会手伝い〜つまりわたしのペット〜から、判定Bを出すなんて醜態、わたくしはお断りですからね」
 マリがくちびるを噛む。けして成績が悪いわけではない。
 わざと学年4位になるよう点数を調整してるミドリ(表彰されるとうざいから)。
 2学期中途に「推薦」で転入できるほど、よいこちゃんのリエ。おまけにピアノの腕は全国区。
 こいつらが特殊なだけであって。
 負けない泣かないくじけない、いつも明るい少女マンガなヒロインのマリは。基本的にはフツーのヒトなのだ。
(フツーのヒト? ねぇリエ。確率1万分の1をひっくりかえしてエンピツ転がしだけで百点満点取るヤツが、フツーかしら?)
(ミドリ。過ぎたことをぐじぐじ言わないで。がんばりやさんのマリにマリア様が微笑んだのよ、あのときは)
「うふふ。マリ先輩ってば、おこられてやんの」
「あら、アリサちゃん。あなたは“百合のつぼみ”の入れ替えが、かかってるのよ?」
「ぐ」
 聖アザレア女学院の成績優秀者は、“百合の乙女”の称号を持つ。そして、“乙女”のもとには。徒弟制度的に、優秀な後輩が“百合のつぼみ”として、指導を受けられる身になれる。
「リエは人気高いから、特例措置は前回かぎりよ。だいじょうぶ?」
「だだだ大丈夫です、ナオミおねえさま」
「まぁ。どうかしら。深夜ラジオになんぞに、うつつを抜かしてないでしょうね? アレにはほんと、メイワクしてるの。学生会でも問題になるくらい」
「そ、そんなことありません。だいいちテレビもラジオも寮には持ち込み禁止で」
「ほんとうに?」
「ラジオネーム“くーちゃん”なんて知りま…あ!」
 ナオミおねえさまは、嘆息まじりにリエを見た。
 アリサちゃんはリエおねえさま預かりだから。
「ご、ごめんなさい! 反省します。困ったわどうしましょう…うー。はい、反省会はじめー」
 リエにつられて、4人はチームロケッツ・パラパラを踊り出した。
「…ま、いいわ。すぐ夕食[ごはん]だし。踊ってなさい」
 ナオミおねさまは踊りません。おねえさまオブおねえさまですから。壊れてもあきれても、つねに優雅で華麗です。




     −−金曜日−−
「反省会終わり。ゴハンにしましょリエ」
 まっさきにロケット団パラパラをやめたのはマリ。…根性なし? したたかなオンナノコはムダなことはしません。
「でも」
「そうね。おなかすいたし」
 ミドリも現実家です。
 アリサちゃんは。まだ踊りたがってるリエちょわんを、盗み見て。先輩ふたりに従いました。
 ミドリがアリサに聞きます。
「そもそもなんでリエは踊ってたの?」
「あ。バレンタインチョコを配るときにつけるリストバンドの色、どうしようかなって」
 そのへんの壁に左手をついて、クスクス笑ったあと。ミドリはリエに言いました。
「もうバレンタイン終わっちゃったわよ」
「い!」
 リエの脳内で、ショパンの革命エチュードが16小節響いたあと。
「け、け、け…」
「やばい。ますます壊れた! マリ、アリサ、手伝って」
 3人がかりでリエを押さえ込んだ。
「リエ。それだけは、ダメ」「ぜったいダメ」
ミドリとマリを見て、ようやくアリサちゃんもピンときた。
「じゃあ、ボクがやります。ケツだけ星人ぶりぶ」
 マリの平手ぱんち!
「あんたがやるのもダメ。学生会出入り禁止にするわよ」
「…オラって世界一不幸な美少女?」
「ジャガイモハゲになれ!」
 マリはアリサのアタマを。ぐりぐり攻撃の刑に処した。




     −−土曜日−−
 夕食のあと。
 ナオミおねえさまは、一同を学生会室に呼び出した。
「おまえたち。急に悪いんだけど。日曜日、お手伝いしてほしいの」
 えっ、と声が3つ揃うなかで。ミドリだけは事情を知ってるのか、黙ってる。
(リエおねえさま。てっきり海賊ごっこな演劇をやるんだと思ってましたボク)
(アリサちゃん。日曜日と差別化できないから、今回はパスなんですって)
(ふーん。オトナの話って、ボクよくわかんないや)
「…“また”バザーですか? いまから演劇の練習は」
おそるおそる切り出したマリに、ナオミおねえさまはにっこり微笑むと。
「うふふ。こんどはコレよ」
 ごとり、と手のひら大のメカを取り出した。
 ミニチュアの4輪駆動車?
 ぶっそうな刃物が、あちこちにイガイガ突き出してる。ただのオモチャでは、ない。テロ支援国家と指定された地域へは輸出できない〜兵器に準ずるあつかいの〜精密メカニックだ。
 クラッシュギア。
 この金属製の重量物は、そう呼ばれている。
「早川グループの総力の結晶よ。その名も鎧輝[Gaiki]」
「うわー。たしか800億円プロジェ」
 にっこりとナオミおねえさまは、アリサちゃんをさえぎった。
「エイティ・ビリオン・ダラー・プロジェクトよ」
 きょとん、とするアリサちゃんに
「ばかね。800億“ドル”なの」
 ぽかり、とアタマをこづくマリに、だってーまだ英語習ってないもんと抗議するアリサちゃん。
「クラッシュギア・トーナメントのお客様たちは、より強力なマシンの出現と、より華麗なバトルを見たがってるわ。今度の大会。おまえたちで、2流チームの安いマシンを、蹴散らしてきてほしいの。ミドリ。ごっそり賞金を稼いできて頂戴」
「はい。おねえさま」
「…戦うんですか? わたし、争いごとは」
 ロコツに嫌そうな顔にゆがむリエに、ナオミおねえさまは眉をひそめてささやいた。
「戦うのはヒトじゃなくてオモチャよ、リエ。囲碁や将棋の大会で、誰か傷つくかしら? それに、どこぞのくだらない連中が、つまらない用途に使うかもしれない賞金を、あなたが勝ち取って、めぐまれない子供達の施設に寄付するの。すばらしいことだと思わない?」
「はい、おねえさま!」
 使命感に、キラキラ目を輝かせてるリエとマリとアリサの横で。
 あさっての方向を見ながらミドリは思った。
 だったら最初から800億ドル寄付しろよ、と。


(作者補記)
 きょおのカスミンがバザーだっただけ。
 ほとんどが、日曜日の激闘ギアTネタです。




     −−日曜日−−
 試合から帰ってきた一行は、しょげていた。
 正確にはリエちょわんが、しょげていた。
「ほら。リエ。元気出して」
 だいたい、敵が2流以下のC級なだけだったのよ。ちっとも「越えてない」し。ゴムがだらしなく伸びてる擬音そのままに、ちん○んぶらさげてるだけの下等な生物どもが、クラッシュギアバトルなんて高尚なこと、「できる」だなんて考えること自体が僭越なのよ。名前のとおり、棒のように呆けて、つったってただけ。「クラッシュギアバトルなんてくだらない」とか言っておきながら、そのくだらないことも満足にできなかったのよあの愚か者どもは。イソップ物語のキツネ以下。負けが込んできたら大会自体をブチこわそうとテロリスト気取って追い出されて。当然でしょあれじゃ。クレクレオレ様は、青春の幻影とエヴァの暴走を求めて、剛田雑貨店のおばさんに泣きついてればいいの。きらめきもひとりで探せない王子様は、しょせんお子様なのよ。ギャルゲーキャラやキャバクラのおねいさんじゃないのよ女の子は。
 マリのなぐさめは、逆にリエを蒸し返しただけだった。
「遅刻遅刻って、焦げかけのトーストかじりながら試合に来るような女のくせに、だなんて」
 ふたたび泣きじゃくりはじめたリエに、こんどはミドリが相手する。
「男も女もない。リエはちゃんと間に合ったでしょ試合に。巌流島の決闘とちがって。負け犬の遠吠えよ。気にしないで」
「試合前、あいさつに行っただけなのに。シロウトのフリして油断させようとしたんだろ、だなんて」
「礼儀知らずの逆恨みよ。気にしないで」
「ダミー音源やデコイを卑怯だ、って」
「アタマ悪いだけよ連中が。てめえの地獄耳にうぬぼれてるなら、当然それを逆手に取るのが戦術でしょ? 騙されるほうが悪い!」
「カネにあかせて新メカ搭載だなんて、とにかく卑怯だって」
「バッテリースライド機構は、たしかに新開発だったけど。レギュレイションどおりよ。アイデア自体は、ギアマスターなら誰もが考えること。たんに実用化できなかった相手が無能なだけ。シミュレイションではなく、カタチにできてこそのクラッシュギアなのよ。いいことリエ。正々堂々と戦ったのよ、わたしたち」
「でも」
「貧乏人はこころも貧乏になるってナオミおねえさまも言ってるじゃない」
「でも」
「ひがみや嫉妬で壊れてる相手まで同情することはないの」
 つんつん、とマリの裾をひっぱって、アリサちゃんがこっそりささやいてくる。
(ひょっとしてボクたちって。今回、…悪役?)
(相手の視点で見れば、そうかもねアリサちゃん。スポットライト浴びて、華麗に言いたい放題だったもんねー、ナオミおねえさま。あーすっきりした)
(ボク感動しました。「3流なのよ。うふふ。それが3流の証拠!」とか言って。敵のメカもプライドも、こなごなにしちゃって)
(ナオミおねえさまだもん。やることなすこと絵になるの。ああ。あの朗読口調。思い出してもうっとりだわ)
(スポンサーあいさつだけの予定だったのに。結局、鎧輝[Gaiki]の駅、駅なんだっけ)
(エキシビジョンマッチ)
(それです。それでオイシイとこ横取りしちゃって。ほんとはミドリ先輩の試合だったんですよね、あれ)
「そ。わたしの獲物だったのに。横取りするなんて、ナオミおねえさま、ずるいわ」
 ふたりに口をはさんできたミドリに、マリが返す。
「「おまえにはもっと派手な舞台を用意してあげる」とか言われて、喜んでたくせに」
「ふふふ」
「? ストレス解消の場を奪われたにしては、ゴキゲンね」
 いぶかしむマリに、ミドリがめずらしく笑った。
「ナオミおねえさまの華麗な活躍が見れたから、いーの」
「そっか」
「じゃ、リエをお願いね、アリサちゃん」「わたしたち、ナオミおねえさまに報告に行くから」
 ミドリとマリは、思い出しなきじゃくりのリエを、アリサちゃんにおしつけると。
「でもぉ」
「いいからリエをなぐさめてあげて」「リエおねえさまは悪くないって」
 ミドリとマリは、そのまま寮部屋を後にした。
「ねぇミドリ。だいじょうぶ、かな。アリサちゃんで」
「大丈夫よマリ。わたしたちが「悪くない」って言っても。リエは信じてくれないわ」
「…そう、ね」
 いちどしおらしくなったものの。しかし、にぱっと笑うとマリは続ける。
「猫かぶりのミドリじゃ信じてくれないもんね、マリア様は」
「ぶりぶりっこのマリじゃ、信じてくれないからね、マリア様は」
 ふたりして嘆息。
「ねぇミドリ。たまにリエって残酷だよね」
「ん」
 ふたりが持ってないモノ。手にできないモノ。
 それは。
 正義と、愛。
 そして。
 ナオミおねえさまの寵愛を独占すること。
 愚劣な存在にさえ愛を示すマリアさまは、嫉妬することさえ許してくれない。
 俗人ふたりは嘆息するしか。
「入ります」「おねえさま、ただいまですぅ」
 学生会長室には、おいしいストレス解消だけ楽しんで、さっさと帰ってきたご主人様がいた。
「あ、おまえたち。ごくろうさま。ところで…」
「だいじょうぶです。アリサちゃんに任せてきました」
「そう。おまえに任せておけば問題ないわねミドリ」
 おまえに任せておいてもリエのココロはわたくしから離れない。ミドリにはそう聞こえる。
「ところで、帰ってきて早々悪いんだけど」
 ナオミおねえさまをさえぎって、ミドリが口をはさんだ。
「ダメです。早川重工が、サイボーグ兵器の研究をはじめたことは知ってますが。改造手術もキャンペーンガールも、お断りです。中華料理店チェーンでチャイナ服着るのも、ましてや宇宙機動兵器のパイロットなんてぜったいにお断りです」
「そうじゃなくて」
 こんどはマリが、さえぎった。
「ダメです。雑貨屋でコスメグッズ売ったり機織りするのもイヤです。ミニスカートはいて火星がせっかんするのは、いまのリエにはムリです」
「ちがうのよ」
「ナオミおねえさまがNASAに行ってるあいだに、かぐや姫にヒントを得たトレンディでバイオレンスな学校演劇をやるのも」「葛飾で一日警察官をやったあと盆踊りするのもダメです!」
「おまえたち。ひとの話を聞きなさい少しは!」
 ミドリとマリが、口をとがらせてるのをさえぎって。
 ナオミおねえさまは言いました。
「みんなで食事でもどうかしら。…その。今週はみんな頑張ってくれたから」
 にっこり(作り)笑いではなく。
 ちょっと照れくさそうに、あさっての方向を見ながら、おねえさまがそう言うときは。
 ナオミおねえさまのゴキゲンがすこぶるいいときなのでした。
 そして、一同は。
 カニとてんぷらを食べに浅草へ行きました。

     −了−

あとがき

 2002.0211(月)〜2002.0217(日)までの一週間。千葉県美梨野市で見れた地上波アニメをネタに、リエちょわんたちで遊んでみました。
「おじゃる丸」「Dr.リンに聞いてみて」「となりのオコジョさん」「筋肉マン2世」「シャーマンキング」「ヒカルの碁」「ポケットモンスター」「アクエリアンエイジ」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」「シーバトラー」「カスミン」「激闘クラッシュギア・ターボ」「ギャラクシーエンジェル」「だぁだぁだぁ」「サイボーグ009」「こちら亀有公園前派出所」「ワンピース」
 白泉社の少女系誌ネタは、「みかん絵日記」「サディスティック19」。
 関東圏以外では、通じないでしょうね。
 大昔のOVAを、いまどきのアニメで。男性ばかりが見てるであろう作品を、少女系で。
 誰が楽しいのよこんなもん? すいません。完全に自己満足です。

 当時。「Dr.リンに聞いてみて」「ベイブレード(無印)」「ココロ図書館」の終了が、非常に喪失感でした。
 エスカレーション・キャラに置き換えて楽しんでたから。
 ご感想などいただけると、うれしいです。