by.大久保美籾&狐月
めぐりあい宇宙(そら)
−−ゲルググ。ジオン公国最終量産型モビルスーツ。ギャンとの競争試作(ザビ家内部の政治抗争に起因する)に勝利した結果、制式採用される。量産MSとしては、公国初のビーム兵器を運用可能とする。
性能、操縦性、運用費…。すべての面で連邦のMSを上回る、優秀な機体。しかし。投入時期の遅延、配備数の不足、搭乗員の低練度などのため、戦局を覆すことには寄与しなかった。ゆえに巷間では、悲劇の名機と言われている−−
機動戦士ガンダム。
ガンダム1年戦争の下敷きに、第二次大戦や中東戦争が入ってます。
ゲルググは紫電改または烈風ってトコでしょうか。
ジオングは震電? 秋水?
同期の桜だの、特攻出撃前夜だのは、やおい系では常用ネタのひとつ。
基本的に、やおいでできることは、百合でもできます。
−−ゲルググは容易な操作性ゆえに、優先して促成栽培の未熟練パイロットに割り当てられた。幼年、老年、女性。つい数日前まで“民間人”(ジオンは戦争後半より国民皆兵制であったため、正確には民間人は存在しない)であった彼らの、辛酸な戦死状況は、数多く語り継がれている。ゲルググが悲劇の名機と言われる、もうひとつの理由である−−
小さな眠りについた少女。
その閉じたまぶたに、そっと口づける。
それは“眠ってもらった”ことへの、ささやかな、謝罪。
まるで、お人形さんのような少女。
わたしの腕の中で動かない、お人形さん。
わたしの大切な…。
「…あ、わたしだ。衛生兵を頼む。…そうだ。意識がない。…そうだ。至急、頼む」
迎えはすぐに来た。
そう。
あんたが座っていいのは、あの背もたれのない丸いイスの上だけ。
モビルスーツのコックピットなんかじゃ、ない。
そこは、あたしみたいのが、世の中を棄てるための場所なんだから。
運び出されるストレッチャーに背を向け、あたしはMS格納庫(ハンガー)へ向かう。
ニュータイプ。
あの娘の模擬戦闘成績は、たしかに良かった。
しかし。実戦は、シミュレイションとは、違う。
音大でピアノ弾いてた娘なんかを、MSに乗せるなんて。この国もいよいよヤバいな、なーんて思ってたけど。
あの娘と出会ってしまった以上。
愛想の尽きた祖国とはいえ、地球のモグラどもに蹂躙させるわけにはいかない。
ソロモンを失陥したうえに、ここ(ア・バオア・クー)を抜かれたら。
公国は、…滅びる。
しかし。
無条件降伏だけは、ありえない。
連邦には、それなりの対価を流血で支払ってもらう。
そのために、ここ(ア・バオア・クー)に、ジオンのすべてが集められたのだ。
そのひとつ。
緑色の濃淡で塗り分けられた、公国の最新型MS。
大きなブーツ。大きなスカート。グラマラスな胸部。ポニーテールな頭部。
“おんなのコ”な機体…。
「何がおかしいのさ」
「だって、こんどの新型、あなたにソックリなんだもん」
あの頃にはもう、あの娘は、あたしのことを中佐、と呼ばなくなっていた。
「どこが?」
「ポニーテールで、吊り目なトコ」
「…あぁ。頭部のセンサーボックスね。でも、ひとつ目(モノ・アイ)のどこが?」
吊り目と言われても。ひとつ目は、真円のカメラレンズでしかない。
「瞳じゃなくて、目。カメラスリットが切れ長に吊り上がってるでしょ?」
ウフフ、あなたそっくり、とあの娘は微笑んで。
あたしは、ちょっと気分悪くして。
「…少女趣味な愛称なんか、つけないでよね!」
「もう、つけちゃった。だって、菜っぱ緑なんだもん」
「…なんて、名前?」
「コマンダー・グリーン」
「…あたしの名前(訳注:グリーン中佐)じゃないのさ」
「ちがうわ。濃緑色迷彩(訳注:コマンダーグリーン)よ」
ヤな予想どおり。
聞いたあたしが、バカだった。
「じゃ、あっちのザクも、そう?」
あれも濃緑色迷彩・公国6号、おなじ菜っぱ緑[カラーリング]。
あの娘は、ちがう、と首を振った。
「あの子は、おんなのコじゃ、ないもん」
“おんなのコ”だから。
誰かさんと同じ名前を付けた。
誰かさんと同じ名前の機体で戦う、って言った。
そして、あの娘は。
ソロモン迎撃戦で、7機も落とした。
初陣でエース。
あたしは、撃墜2機だけで、自分の機体をおシャカにした。
たぐいまれなニュータイプ能力ゆえに、あの娘が7機目の敵パイロットの断末魔を感知してしまったから。
おきまりのパニック。
あたしのおニューのゲルググは、あの娘の無事と交換で、大破・放棄された。
装甲が厚く、重たいリュックドムだったら、間に合わなかった。
装甲が薄っぺらいザクだったら、心中してた。
重装甲かつ高機動。
あたしのゲルググは、あたしと大切なものを守って、逝ってくれた。
その魂である、パーソナル戦闘データだけを残して。
「あんた、ハンマーなんて持ったことあるの?」
「ピアニストはピアノの調律くらい自分でできるのよ? ハンマーくらい持っ」
そう言いながら、あの娘は自分の指をぶっ叩いた。
とろくさかったけど。
あなたが命がけで守ってくれた機体だから、と。
整備兵まかせにしないで。
いつも、丁寧に整備してた。
まるで、誰かを愛撫するように。
丁寧に、整備してた。
…きょうも、完璧に仕上がってる。
ID認証と戦術支援コンピュータのインターフェイスを書き換えるだけ。
“リトルパインケイプ少尉”というそれを“グリーン中佐”で上書きするだけで、作業は終了。ものの5分とかからなかった。
格納庫(ハンガー)は、無人だった。
遺憾ながら、この区画は放棄されるからだ。
戦況は思わしくないようだった。
この時点で。
連邦は橋頭堡を確保、ギレン閣下は戦死、キシリア閣下が総指揮代行…。
つまり、我が軍は混乱の渦中にあり、すでに敗戦が決定的だった、ということを。
あたしが停戦命令前に再出撃できたのは、まったくの偶然だったということを。
あたしに、知るすべはなかった。
ただ単に、あたしには見えてしまっただけ、だ。
来る!
あの女、が。
来る!
“黒の女帝”との異名を持つ、連邦のラピッド・リバー。
艦隊司令のくせに、みずからMSで出撃してはスコアを稼ぐという、変わり者。
落とすのは、MSだけではない。
女性のくせに、その搭乗員が女性の場合は…。
捕虜虐待…。
優秀な敵将校に、かんばしくない風評がついて回るのは。
古今東西、敵味方を問わず、よくあることだ。
そして。
この女と、あたしには。
因縁が、…ある。
その不埒なウワサが、真実だったから!
「フェブラリィ・グリーン、出る!」
音声入力にしたがい、機体は虚空に放り出された。
いまわしい過去の記憶を、加速Gととももに振り落として。
あの女とは、決着をつけねばなない。
少尉のために。
そして、あたし自身のために。
(あたしにも“見える!”)
機械が反応する前に、こっちを捕捉した敵機があることを、あたしは認知した。
向こうも、そうだろう。
これだけミノフスキー粒子濃度が高ければ、電波を利用する兵器はいっさい無効。
それなりに距離が詰まって。
はじめて警戒システムが文句を言い出す。
光点はアイコンに、アイコンは画像に。
望遠モードが捕捉した、黒紫と金に塗り分けられたガンダム。
火器管制システムが騒ぎ出す。
そして。
これが最後の戦いとなった。
Eskalation 〜Die Begegnung in Kosmos〜 Das Ende
−了−
あとがき
もともと某サイトへカキコするつもりで始めた文章。
気付いたら、徹夜になって、脱稿。
オリジナルのキャラで書き始めたのに。気付いたら、乗っ取られてました。
いいかげん、グリーンには出てってもらわないと、オリジナルが書けない。
あ、グリーンと言っても。富本起矢の初期作品(中米ミリタリもの)は関係ないです。
当サイトのここで発表しちゃうとバレバレですね。
キャラ名、秘匿しても無意味。
出自がオフザケなので。勢いだけで出力しました。
こんなもん書いた原因は。
「ザク打」というタイピング練習ゲームにはまったため、です。
ブラインドタッチできるくせに。
でも。ヘタなシューティングゲームより楽しいです。
全クリアすると出てくる、隠し面。とても難しいです。
vsガンダム戦。超長文+短制限時間+ミス許容なし。
シャアジオングは撃墜されまくり。
じつは、きょう(脱稿した日)。
お城(有明)で、舞踏会(コミケット)がある日です。
20世紀最後の。
しかし、美籾はシゴトです。有給休、取れなかったので。
そのへんのストレスで、ブチ切れた、のでしょう。
[06.クリームパフェ作ったら][07.一週間]よりも、製作時期・発表ともに先。時系列では、[05.見果てぬミドリ]書いた直後です。
なんで分類番号を8番に? はやく忘れたいからです。
ご感想などいただけると、うれしいです。