by.大久保美籾&狐月
タバコ
早川重工R&D、今回の新製品は、タバコ。
「会長代行、これがその試作品です」
早川ナオミ。高校生にして早川コンツェルンの実質的代表である。金持ちで美人で頭脳も運動能力も…夜伽の技術さえも完璧な、絶対無敵のおねえさま。
唯一の欠陥(というか第六天魔王ではなく人間であるという証拠)はタバコを吸うこと。
「見かけも味わいも、タバコそのものですが、唯一のちがいは、燃焼温度であります」「燃焼温度は40度から60度まで、配合比率を変えることで調節できます。あたりまえですが、うっかり人体に触れても危険はかなり低く、うっかり灰皿から落ちても火事になるまでには、ずいぶん時間がかかります」「もともとは燃料電池の水素改質器用・低温熱源だったものをイタズラで応用したものなのですが」以下、科学技術な意味不明語がぐちゃらぐちゃらと。
「ふぅん、そう」
生返事で白衣メガネらの解説を聞き流すナオミおねえさま。
「あぁ、おねえさま。こんどこそ禁煙なさってください。リエは肺ガンになるおねえさまなんて見たく」「うるさい!おまえはペットのブンザイで、このわたしに意見しようと言うの! おしおきが必要だわね」「ああっ」
ゆうべはくだらないことで、くだらないプレイに流れ込んだものだ。しかし、禁煙はともかく本数を減らさないと、リエがいいかげんウザくて仕方がない。
どうやって禁煙しよう、って考えてる矢先に、こーゆーもんつきつけるかね、おまえたち!
などとは、口が裂けても言えない。
おともに連れてきたマリが、熱心に技師らに質問してる。温度がどうたら、燃焼時間がこうたら。
理系なことには興味がないと決めてかかっていただけに、意外といえば意外であった。…おや、おみやげに現物を何本かせしめた様子。
あんなもののどこが気に入ったのかしら?
その晩のうちに、ナオミおねえさまの疑問は氷塊した。夜伽の担当はマリだったから。
「ああ、おねえさま、ローソクのかわりにこのタバコで、わたしの肉体に聖なる刻印を」
リエと似たよーな聖女顔をしてるくせに、よくもまぁ意地汚いことを思いつくわね、このメスブタわ!
自分(の欲望)に正直なごほうびに、その大きな瞳に根性焼きを入れてやろうかと思ったが、目つぶしと生爪はぎは、天丼のエビ天、いちごショートのイチゴ、もちょっととっとくべき貴重なオタノシミイベントだ。上の目ではなく、ビシュヌ神の目~陰核~に根性焼きを入れてやることにする。
禁煙…まぁいいわ、明日からにしましょう。
ナオミおねえさまは新アイテムを用いて一夜を楽しんだ。
翌日。正確には翌晩。
「ああ、おねえさま。不遜で僭越なわたくしめに、犠牲羊の刻印を」「まさかミドリ、そのタバコは」「はい、マリから分けてもらいました」
禁煙…しかたないわね。
ナオミおねえさまは新アイテムへの習熟を名目に、一夜を楽しんだ。
「ねえ、おねえさま。ボクにも戦士の刻印をきざんでください。ほとばしれ! ボクのエロス!」
(アリサちゃん、インポート先がちがうわ! それにエロスじゃなくてメロス! 台本、台本)
(あ! ええとすいません)
禁煙…さっさとぜんぶ吸えば、このいまいましいアイテムは無くなる!
ナオミおねえさまは新アイテムの消滅を名目に、一夜を楽しんだ。
翌日。正確には翌晩。
「ひどすぎます、おねえさま。わたしに隠れてタバコ吸ってただなんて」
「なんの話かしらリエ?」
「ぜんぶ聞きました、うっかり口をすべらしたアリサちゃんと、自慢げにアルコトナイコトしゃべるマリと、思い出してはウットリしつつ言葉すくなげに自慢たらたら思わせっぷりのミドリから、ぜんぶ!」
「そう。それで、おまえはどうしてほしいの?」
「ですからタバコはお控えに」
ナオミおねえさまは、これみよがしにシガーケースから、とっておきのコイーバ(キューバの超レアタバコ)を取り出し、点火し、紫煙を肺胞のすみずみまで満たしたあと。
リエの乳首に押しつけた!
さいしょから色が濃い部分なら、ヤケドのあとは目立たない。
「本物」をおしつけられて、「本物」の悲鳴が早川邸に響き渡る。
途絶しかかったリエの意識が最後にとらえたのは、「あぁ、やはり本物はいいわ」と紫煙の向こうにかすむ、ナオミおねえさまの声だった。
あとがき
みなしの日記(→例によって)20040806(金)からのシングルカット。
みなしの日記(→例によって)では、上述のような小話を日刊しています。最新作はこっちに山積みなので、こちらを真っ先に見ていただきたいのが正直なところです。
「小話を7本/週」がノルマ下限。…さて、いつまで続くでしょう?
ご感想などいただけると、うれしいです。